アクティブスプリッターの製作

 

2年前の2021年、ライブステージ用にAB入力ボックスを製作しました。有線接続のギター2本をスムーズに持ち換えるための、入力切替ABボックスです。フットスイッチで入力を切り替えるシンプルな仕組みで、LED点灯用にDC9V電源を使用し、ペダルチューナーなどに電源供給をするためにDC9V出力も搭載しています。

 

 

今回のアクティブスプリッター製作は、このAB入力ボックスに機能を増設する形で行われました。

 

ここ数年、自分の仕事でのニーズが無いと機材製作を行わなくなっておりまして、つまり今回もニーズに駆られての製作です。今回の製作に至るきっかけとなった悩み(ニーズ)を経緯としてまとめてみました。

 

●普段サポートステージでは、ペダルボード最終段のボリュームペダルで音のミュートをしている。ミュートスイッチではなくペダルによる可変ミュートが良い。

●サポートのステージでは、しかるべき時にきちっと音をミュートして静かにする必要が多々ある(自分のバンドの時はミュートとかどうでも良いです)。

●足元のメイン機材のHelix LTにはチューナー機能があるが、公演中にいちいち足で操作してチューナーを呼び出すのは面倒。

●そうなると別途ペダルチューナーが必要になるが、世の中のチューナーのほとんどが、チューニングする際にミュート状態になってしまう。その場合ボリュームペダルとチューナーで二重ミュートすることになり、ミュートから復帰する際の手順が増え、シビアなタイミングでの曲入りの際にバタバタしてしまう。

●スイッチャーなどのチューナーアウトを使っても結局チューニング時に出力はミュート状態になってしまうので同様。

●Helixのヘッドフォンアウトなどをチューナーにつなぐことで常時チューニング可能になるが、エフェクトやアンプ通過後の音なので、反応も悪くチューニングがしづらい(これが現状のやり方です)。

●ペダルボード最前段に、チューニング中も音が出るチューナーをつなぐことで解決するが、そのようなチューナーが少なく、あったとしても見た目や形・大きさが好みやニーズに合わず理想とすべき機種が無い。またストロボタイプやポリフォニックタイプは避けたい。

●結局、ペダルボード入口で音を2つに分岐させて、片方の出力をHelixにつなぎ、もう片方の出力をKORGのPitch Black miniにつなぐのが理想。ペダルボードの空きスペース的にも、見慣れた使いやすさ的にも、生産終了となったPitch Black mini一択。

●しかし、単に出力を分岐させるだけでは信号レベルも落ちるし、2つの出力それぞれに接続した機器によってインピーダンスが合わないことになる。元気のない音になってしまったりする。

●そこでアクティブスプリッターの出番。アクティブスプリッターとは、信号を衰退させずに出力先を増やす装置。アクティブというのは機材界では「電源を使った装置」を指し、パッシブと逆の意味。スプリッターは分配装置のこと。ディバイダと言われたりもする。

●しかし世の中にシンプルなアクティブスプリッターはなかなか無い。現状のペダルボードのサイズに合うものも無く、あったとしてもレイアウトの都合上これ以上機材を増やしたくない。

●ならば作るしかない。そしてボード最前段のAB入力ボックス内に組み込むしかない。

 

では早速作ってみましょう。

 

回路は単純にFET一石のバッファを2つ並列にした形にします。バッファというのは、ギター界では長いケーブルでも引き回しても劣化衰退しない強い信号にしたり、インピーダンスを下げることでノイズに強くしたりするエフェクタ(機能)のこと。バッファの実際の効能や意味はこの動画が分かりやすいです。日本語字幕もありますのでオンにしてみてください。

 

製作済みのAB入力ボックスの筐体内スペースが狭いので、小さな回路であることが求められます。またバッファ不使用時との音量差や音質差を極少にするため、余分な電圧増幅は行わないこととします。決まった回路はこんな感じ。

 

 

FET一石のバッファ回路は、ネット上で検索すれば無限に出てくるお約束の形です。FET一石でバッファを作るとしたらもうこの回路しかないと言っても良いでしょう。上記回路図は、1993年にリットーミュージックから発売された「ハンドメイドプロジェクト ver.2(大塚明氏著)」で紹介されているアクティブパラボックスの回路を、2系統出力用に変更したものほぼそのままです。現場によっては不要となるかもしれないので、バッファとスプリッターをバイパスできるスイッチを設けました。

 

日頃からユニバーサル基板の切れ端は取っておくようにしているのですが、ちょうど良さそうな形の基板があったのでその上に組んでみます。

 

 

これくらいの回路規模ですと、エッチング基板を作るよりも部品の足同士をつないでパターンを描いた方が楽です。

 

 

基板を裏から見るとなかなか汚い。一生上達しない気がします。

 

 

AB入力ボックスにチューナーアウト用のジャックとスプリッターバイパススイッチを増設。基板もネジで止めています。ペダルボードは運搬時などに揺れたり衝撃も受けるので、部品が動いて故障の原因になることが多々あり、それを防止するために硬化樹脂であちこち固定しました。2年前の樹脂は黄ばんでいますが、今回のものは真っ白です。

 

 

今まで現場でローディーさんが接続を間違えたりすることもあったので、各接続部にテプラで名前を貼りました。

 

 

思い立ってから全作業2時間ちょっとで終了。スプリッターをオンにするとバッファーを通過した音となります。アンプやエフェクターにつないだ最終的な音で聴くと違いはほとんどわかりませんが、クリーンなアンプ直で比較すると、バッファー通過音はバイパス時よりも若干きらびやかですね。キラっと元気になった印象ですが、相対的に中低域がすっきりしたようにも聴こえ、人によっては太さが減ったと感じてしまうかも。自分としてはくっきりキラっとしたので大変気に入っております。とはいえ、言われなければ気付かないレベルの差異なので、どうでもいい変化ともいえます。

 

2つの出力は、全く同じバッファ回路になっているので理論上それぞれ全く同じ音です。このスプリッターは、2台同時にアンプを鳴らしたい人などにも良いかもしれません。

 

これで悩みが解決しました。ボリュームペダルで全体のミュートを可変で行いつつ、システムの最前段の生音で、常時チューニングができるようになりました。