2010年代後半から、やたらとヘヴィでチューニングの低い楽曲が増えたような印象があります。それによりギターの最低音弦がE音どころかD音でも対応できなくなり、必然的に7弦ギターが必要になりました。しかし僕の場合は高音域での速弾きプレイ等をしないので、弦が7本ある必要がありません。必要なのはB音の低音弦だけですので、6弦ギターに7弦用の弦セットの2~7弦を張れば良いのです。そのコンセプトで「6弦式7弦ギター」を作ってみましたが、Gibson SGのスケールサイズが短くて低音弦ピッチが安定せず、結果的に計画はほぼ失敗に終わりました。
それもあり、恐らく2020年くらいから最低でも以下の条件を満たすようなギターを探していました。
・6弦ギター
・ファン(扇型)フレットもしくは27.5インチ(698.5mm)以上のロングスケール
・ボディは黒以外NG、指板も黒が良い
・メタル系、ビジュアル系のデザインはNG
・ジャンボフレット
そこで見つけたのがオーストラリアのブランド「Ormsby(オームズビー)」のTX GTR6という機種でした。しかし見つけた時にはすでに新品流通も無く、日本の代理店にも在庫は無く、中古市場を探すしかない状況でした。
運良く楽器店で実機を見つけた時に試奏してみたところ、弾き心地はばっちりでした。しかしヘッドデザインがどうしても許せず、ボディカラーも受け入れることができませんでした。真っ黒のモデルも存在しないんですよね。上の写真の黒っぽいのはグレー系のガンメタルという色なんです。下の画像は試奏した際のinstagram投稿です。
そこから3年間弱、色もヘッドも妥協してこの機種を買おうと思って探していましたが、なかなか見つかりませんでした。そんな中、ギターがお好きな漫画家のEB110SS先生から教えて頂き、海外の楽器マーケットサイトReverbの中にOrmsbyの工房直販アカウントがあることを知りました。
そのアカウントの出品を見てみると日本では売られていないモデルも多数。TX Carbon 6 stringという機種のTuxedo Black(タキシードブラック)というカラーモデルがあるではないですか。ヘッドのデザインが我慢なりませんが、多くの点でこれは理想に近いです。
スペックはこんな感じです。
ボディ:アルダー
ネック:ラミネートメイプル
指板:エボニー
スケールサイズ:高音弦側25.5インチ(647.7mm)、低音弦側27.5(698.5mm)インチ
フレット:ステンレスジャンボフレット
ペグ:ロック式ペグ
これは買うしかない。今までに1度だけReverbで日本国内の出品者から中古機材を買ったことがありました。しかし外国との取引は経験がありません。大丈夫なんだろうか。
本来Reverbは中古機材売買サイトなので、値切り交渉の機能があります。新品商品かつ公式工房相手ですが思い切って大胆な値切りをお願いし、向こうから「それは無理、このくらいなら」という数往復の交渉を経て300AUD(オーストラリアドル)の値切りに成功しました(合計金額は後述)。結果的に、予想しなかった関税の支払いなどがありつつも、取引成立から1週間ほどで手元に届きました。予想以上に早い到着に驚きです。
現地工房直販でピッカピカです。新品のギターを購入した経験は少なく、恐らくこれが人生で3度目くらいでしょうか。
でもやはりヘッドの形は許せません。なぜ先端をこんな尖らせてしまうのか。3:3のペグなのにどうして左右非対称のヘッド形状にしてしまうのか。謎の流線デザインも理解できない。これはどうにかしたいですね。先端だけでも切り落としてしまおうか。
何かしらの材を貼ることで加工できそう。
ネックの首根っこを補強するボリュート加工を避ければ加工はできそうです。そう思ってネット上を色々調べてみると、ヘッドシェイプ改造の記事を見つけることができました。読んでみてびっくり、いつもお世話になっている林職人による記事ではありませんか。これは林職人にお願いするしかない。
林職人のもとを訪ね、予め作成していた上記画像を見せました。左から理想順に、
・ヘッドのくびれを超えて木を貼ってヘッドをフライングVのような左右対称形にするパターン
・くびれの場所は維持しつつ左右非対称のフライングVタイプにするパターン
・先端のトンガリだけを除去するパターン。
ヘッドの形状や厚みをチェックして、林職人にも頼み込んで、どうにか理想形の左右対称パターンにすることが決定。やっぱり正統派でトラディショナルなオーセンティックデザインが良いですよね。ESP製品でもない社外品にも関わらず、お受けくださってありがとうございます!
ここから林職人による作業が始まります。いつものように、可能な限り工程ごとの写真を撮っていただきました。ペグを全部外します。
ペグの大穴を木材で埋めます。
表面の塗装や化粧板も削ります。
まずは片側の曲線部分を切り落とします。
ペグのネジ穴も埋まっていますね。
厚さを合わせたメイプル板を貼ります。
カンナで段差を無くします。
反対側も曲線を切り落としてメイプル材を貼ります。
両サイドにメイプル材を貼り終わり、表面も平らになりました。6弦側は黒いバインディングの上からメイプルを貼っています。あとで塗るのでこれで良いのです。
目標となるヘッドシェイプと穴位置をあててみます。
糸鋸でラフカットします。
ベルトサンダーで形を整えます。
ペグ取付穴をあけます。
継ぎ目を隠すために裏面に化粧板を貼ります。僕はその辺り気にしないのですが、林職人の職人としてのこだわりで、綺麗な見せ方をしてくれています。
ブランドのロゴマークやシリアルナンバーなどは無くなってしまいました。Ormsbyごめん。
表面にも同じく化粧板を貼ります。
接着できました。
余白をカットしてヘッドの形にします。
化粧板にもペグ穴をあけます。
林職人の提案で、「グランドリオン」や「グランドリオン2」の時に余ったインレタを貼るか検討しましたが、大きなマークの方はサイズが合わず、文字の方は横書き文字で3:3ヘッドに合わないデザインなので諦めました。
ヘッドの塗装をして完成です。
実はこのヘッド改造の最中に、「このギターのデザインのどこが好みじゃないのだろう?」と色々考えていました。そこで行き着いた答えが「ピックガードのデザインが気に入らない」というものでした。確かにピックガードを変えることで色々解決する気がする!
まずは柄選びです。愛読していたこちらの本の表紙にもなっていたH.S.AndersonのMad Catの黄色いべっ甲柄が良いと思いました。
実は2006年の「グランドリオン」製作時にもこの柄のピックガードを希望していたのですが、なかなか材料が見つからずに断念していたんです。それを最近ギターパーツショップの大和マークで見つけたのですぐに買いました。本来はピックガード材ではなく、バインディング用のセルロイドの未カット材として売られていましたが、十分ピックガードになると思います。
元のピックガードを外してデザインを考えます。トレーシングペーパーなどでピックアップポケットなどを写し取ったりしました。
コントーロール部分の回路もいつものように改造します(後述)。
PCでAdobe Illustlatorでデザインを作り、紙に印刷しては切り抜き、それをボディにあて、またデザインを修正して紙に印刷しては切り抜き、ボディにあてて。そんな作業を8回ほど繰り返してデザインが確定しました。
切り抜いた型紙にネジ穴をあけ、ボディにすでに開いているネジ穴に爪楊枝を指して位置確認をします。
文房具屋で厚さ1mm以上の厚紙を買って型紙とします。
ここからは林職人にお願いしました。ピックガード材に型紙をあてます。
型紙に合わせ糸鋸でラフカットします。
無事に切り抜くことができました。この後ベルトサンダーで直線を出したり、トリマーで端を斜めに削ったり、ネジ穴をあけて面取りします。
最後に回路も変えました。いつも通りの下記構成です。
・トーン回路無し
・フロントピックアップボリュームのみ
・リアピックアップはボリューム無しのスイッチ直結
最初からスイッチ付きトーンポット(500kΩAカーブ可変抵抗器)が搭載されていたので、それをボリュームポットとしています。これでボリュームノブを引っ張ると、リアピックアップがタップされてシングルコイルの音になります。ジャックは今回もPureToneJackにしてみました。
これにて非常の好みのギターとすることができました。ブラックパーツはちょっと残念ですけれど。
もとはこんな感じでしたので上々です。随分オーセンティックにできました。古さすら感じます。
今時なかなかない透明感のあるこのべっ甲が大好きです。眼鏡の材っぽいですよね。
金属プレートが黒で、曲線にカーブしたデザインであるところが残念。余った穴はボルトで塞いでおります。
ブリッジも黒で塗装されているので弦がアースと導通していませんでした。ブリッジを取り外し底面をヤスリがけし、ブリッジサドルの現接触部分もヤスリ掛けすることでようやく導通してシングルコイル時のノイズが低減しました。
レトロビザールを思わせるピックガード形状がお気に入りです。
Ormsbyのファンフレットは斜め具合がキツめなのが良いです。
ヒールレス的になっていますが、ハイポジションは割と弾きにくいです。まあ僕がこのギターでハイポジションを弾くことはかなり少ないと思いますが。
ネック裏が黒ではなくメイプル地である部分は残念です。
林職人の見事なヘッドシェイプ改造。ボリュート加工も健在。
元々のナットは好みでない白い物でしたし、このギターには7弦用の弦セットの2~7弦を張るので、ブラス材で作り直して頂きました。トラスロッドカバーもべっ甲セルロイドでの製作です。
ペグもシルバーだったらよかったのに。
ヘッドの外周なども元の塗装にそっくりでびっくりしました。
以下コストまとめです。
■当初Reverbにて出品されていた金額
商品2000AUD(オーストラリアドル)
配送料230AUD
※日本円で約204,057円、配送料23,467円
■値切り交渉の末の購入額
商品1700AUD(オーストラリアドル)
配送料230AUD
※日本円で約173449円、配送料23467円
■関税
輸入消費税11100円
立替納税手数料1980円
■材料費
べっ甲セルロイド7920円
ジャック650円
■改造代
ヘッドシェイプ改造、ナット作成、ピックガード製作
(かなりお安くやっていただきました)
35200円
■入手合計金額
合計253766円
今までギターにあまりお金をかけたことがないので、恐らく自己負担史上最高額のギターとなりました。結構長いスケールサイズにもかかわらずESP7弦ギターよりも全長が短くなりましたし、重さも3.55kgと非常に助かる重量です。長いステージですと100gだって軽くしたいですからね。
ヘヴィでラウドな現場ではしばらくこいつをメインで扱っていこうと思います。