市販DIボックスの改造

まずはDIに関する前置きです。ベーシストにはお馴染みのDI(ディーアイ)ですが、ギタリストからするとよくわからない機材だったりします。DIというのは「Direct Injection(ダイレクトインジェクション)」の略称で、楽器を直接PAミキサーなどに接続するために使われることが多いです。

 

主な機能としては2つありまして、まず1つがインピーダンス変換機能。エレキギターやベースなどはハイインピーダンス楽器でして、そのままミキサーやインターフェースに接続するとモコモコした音になったり、ノイズが乗ってしまったりします。そこでDIを通すことで、PA機器やミキサーなどと同じローインピーダンスに変換し、楽器本来の音が出せるようになるというわけです。

 

もう1つの機能がバランス出力です。電子楽器は大体がアンバランス信号と呼ばれる形式なんですが、音響機器は大体バランス信号です。DIを通すことでアンバランス信号をバランス信号に変換し、それによりケーブルが長くなってもノイズや劣化などを防ぐことができます。

 

今までDIとは無縁の活動をしてきましたが、近年は現場でDIが必要になることが多くなりました。足元のギタープロセッサーで音を作ってボリュームペダルを経たあと、PAさんへ信号を送るときにDIが必要だったり、そこから信号を分岐させて自分のイヤモニ用ミキサーに信号を送ったり、プロセッサーのマスターVolを変えずにDIのアッテネータで送り音量を変えたり、今ではどの現場でもDI必須となりました。最初はPAさんに借りていましたが、自分でも持っていた方が絶対楽だと思い、BOSSのDI-1をいくつか購入したというわけです。

前置きが長くなりました。今回の改造の出発点はDCジャックが欲しかったというところです。普通電源を使うアクティブDIは卓などからのファンタム電源(48V)による電源供給で動きます。DI-1は9V乾電池も使えるところが便利なんですが、乾電池が使えるならエフェクター用の9Vアダプタでも動くようにしてくれればいいのに、というのがユーザーの気持ちです。現に小さな環境でのリハーサル時は、ファンタム電源供給ができないことも多く、そんなときに電源アダプタによる外部電源供給ができればなとずっと思っていました。

 

しかしDI-1はマッチ箱のようなスライド式のケースなので、前後のパネル以外に部品を実装できません。そしてその前後パネルは部品で埋まっています。ということは別のケースに移植するしかないわけです。どうせならTRS(ステレオフォン)用のバランスアウトも増やしてしまおう。ということで今回の工作は始まります。

 

DI-1の中身を取り出したところ。メイン基板はそのまま使えそうです。

 

 

パワースイッチとアッテネータのレトロなスイッチ。スイッチ類の基板は廃棄となるので印をつけておきます。いつも後でわからなくなってしまうので。

 

 

位相反転スイッチやグランドリフトスイッチ。

 

 

XLRアウトジャック(通称キャノン)。

 

 

基板を見る限り結構シンプルな回路ですが、回路図を起こすのは骨が折れます。しかしネット上を色々探してみてもBOSSのDI-1の回路図は見つかりませんでした。新たなスイッチへと回路移行する部分は軽く手書きで配線図を起こします。あとで絶対にわからなくなってしまうので。

 

 

この基板はそのまま使います。日本の古い機材って、基板上が地味な色合いで興奮しないですよね。灰色とか多くて曇り空を連想します。このDI-1は以前中古で入手したものなので古そうです。経年劣化もあり得るので、いっそ電解コンデンサ類は新しいものに変えてみようと思います。

 

 

どうせならということで色味が派手なオーディオグレードの高い電解コンデンサに全部交換しました。ついでに0.01μFのフィルムコンデンサもWIMAのものに変えました。見た目が鮮やかになると良い音が出そうですよね。しかし音には何の影響もありません。所有しているもう1台のDI-1で同じようなコンデンサ全交換をし、交換の前後で同内容の音声信号を収録して比較実験しましたが、聴感上だけでなく波形レベルで全く変わりませんでした。さすが百戦錬磨の業務用オーディオ機材。部品の個体差などに性能が左右されてはいけません。音を決めるのは部品ではないのです。音を決めるのは回路なのです。さすが世界のBOSS。

 

 

写真撮り忘れでいきなり飛びますが、部品レイアウトを決めた移植先のケースの横穴だけを先に開け、基板やジャック類を仮刺しします。

 

 

部品の仮置きをして問題がなさそうだったので、天面部分の穴類も開け、機構部品を取り付けてみました。

 

 

いつもどれがどのスイッチかわからなくなるので、印をつけておきます。

 

 

先に取り付けられそうな配線を済ませました。

 

 

次にメイン基板を移植しました。元のスイッチ基板類は全廃棄なので、新しいスイッチ端子上に回路を組んでいきます。ON-ONスイッチやDPDTスイッチ、ON-ON-ONスイッチまであるので非常に頭が混乱します。

 

 

どうにか組み上げて各所をエポキシ樹脂で固めました。これでグラツキ系・接触不良系の故障を減らせます。電池ホルダーも金属製にして気分が良いですね。

 

 

見た目が殺風景だったので、自分でAdobe Illustratorで作ったしたシールを貼ってそれっぽくします。使ったシール用紙は市販の普通のものです。でもこれ本当は黒でデザインしてたんです。

 

 

この写真は加工で黒くしていますが、本当はこういう色合いになる予定だったんです。普通紙に試し印刷したときは黒だったのに、シール用紙の特性でしょうか。悔しい。残っていたシール用紙の最後の1枚だったので泣く泣くこの色味を受け入れます。ちなみにこのデザインは僕のやっているGEEKSの1stアルバムのデザインセンスを模しています。過去に自分が行ったデザインなんですが、当時のフォントとか無くて色々探す羽目に。やっぱり機材系のデザインってゴチャゴチャさせたくなってしまいます。

 

 

別角度から。

 

 

バランスアウト周り。

 

 

オリジナルと比較してTRSバランスアウトとDCジャックが増えているにもかかわらず、筐体を小さくすることができました。

 

 

機材は小さい方が楽ですよね。

 

 

1系統の音声信号を、XLR端子バランス出力、TRS(ステレオフォン)端子バランス出力、モノラルフォンアンバランス出力、モノラルフォンパラ出力の4つに同時分配できるようになりました。この4つの信号とオリジナル入力信号を波形分析しましたが、驚くほど見事に一切の変化無しでした。このような音響機材は「音を変えてはいけない」ということが大前提です。素晴らしい。

 

 

今月の現場から早速実戦投入です。