ソリッドギターのセミホロウ化

ソリッドボディのギターをセミホロウボディに改造しました。とは言いましても本来の目的はそれではなく、ギターの軽量化を推し進める上でセミホロウ化に到達したといった方が適切かと思われます。セミホロウ化改造を施したのは4本目のオリジナルギター「アーティラート」です。

 

 

こちらのギター、重量が5.25kgもありました。オリジナルギター1号「グランドリオン」は3.25kg、ステージで多用しているオリジナルギター3号「メギドファイア」で3.75kgですので、それらと比較しても非常に重いことがわかります。ストラトキャスターなどは3kg前後が普通で、世間で「重い」と評判のギターであるレスポールモデルでも4kg前後、重量級のエレキベースでさえ5kgに届くものはそうそうありません。恐らくボディに使われているキューバン・マホガニーという幻の銘木が非常に重い材であることが原因でしょう。

 

何度かステージでも使用したことがありますが、1時間以上のステージとなりますと、ストラップを掛けている左肩が痛み始めます。筋肉痛というよりも、打撲でもしたかのような痛み。レコーディングでも数回使用してみたのですが、みちみちに詰まったような、重心がだいぶ下にあるようなサウンドでなかなか用途が限られます。弾き心地は好みなのに勿体ない。

 

これでは実用性が無いと感じ、いつか軽量化改造を施そうと決意したまま1年ほど放置しておりましたが、ついに2018年の年始に重い腰を上げました。キューバン・マホガニーという材が本物であるとするならば、かなり勿体ない改造ではありますが、誰にも弾かれない名器よりも、第一線で活躍するジャンクギターの方が尊いと考えておりますので、思い切ってやってしまうことにしました。「アーティラート」記事内にもありますように曰く付きのギターですので、躊躇はありません。

 

軽量化改造に伴いまして、セットネック接合部のヒールレス加工も施すことにしました。もともとヒールレス加工での製作をお願いしていたのに、製作したギター工房がこちらの要望を無視して通常のレスポールタイプと同じ形で製作したためです。演奏性に関わるとても重要な箇所の要望を無視されたことは、長らく弾く気が起こらなくなるには十分な要因になりました。この際思い切り改造して、自分が弾きたくなるようなギターにしようと思います。

 

通常のギブソン式ヒール形状となっているので、ハイポジションに全く手が入りません。これでハイポジションを弾いているギタリストたちの偉大さがわかります。

 

 

まずはヒールレス加工から行うことにします。お馴染みのノコヤスリでヒール部分を削ります。丸く空いている穴は、ストラップピンの穴です。

 

 

ボディからネックにかけて滑らかな流線型を描けたので、320番程度のサンドペーパーで仕上げました。

 

 

よくみるとネックとボディの境目に黒い線が見えます。

 

 

なんとセットネック接合部分に隙間が空いていました。隙間が空いている部分は「木口」ですので、接着の強度的にはギリギリ許せないこともないのですが、これは精神衛生的に非常に良くありません。

 

 

表面をサンドペーパーで削って微小な木の粉を発生させ、それを隙間に入れて埋めていきます。

 

 

次にタイトボンドを水で薄めて沁み込みやすくしたものをスポイトに取ります。

 

 

木の粉を埋めた隙間に薄めたタイトボンドを垂らします。

 

 

爪楊枝などで整えて馴染ませます。

 

 

ついでにストラップピンの穴も埋めます。穴埋めには焼き鳥用の竹串を使い、ここには薄めていないタイトボンドを使用しました。

 

 

1日ほど乾燥させました。

 

 

竹串の飛び出た部分をノコギリで切ります。

 

 

サンドペーパーで整えます。粗めから軽くこすって、最終的には320番まで。

 

 

どうにか隙間が埋まりました。これにてヒールレス部分は塗装を残すだけ。計測してみると5.25kgあった重量が5.2kgになっていました。当然ですがこの程度ではボディ軽量化にはなりません。

 

 

ピックガードを外すと、1年ほど前に木で埋めたザグリが御開帳。そもそもスイッチなどを搭載する予定もない箇所に不必要なザグリを施されておりましたが、奇しくも今回はこのザグリをさらに広げることになりました。

 

 

マスキングテープを貼って、大まかにザグる部分を決めます。ピックガード用のネジ穴を打つ部分は残さなくてはいけません。

 

 

ザグリ予定範囲を白い紙にトレースします。

 

 

ボディトップのザグリだけでは、今回望むレベルの軽量化は到底不可能であると思われますので、ボディバックも大きくザグることにします。先ほどのようにマスキングテープで予定範囲に印を付けます。

 

 

同じく白い紙を使ってトレースしておきます。

 

 

続いてトリマー用のテンプレートの作成です。先ほどザグリ形状をトレースした紙をMDF板に貼り付け、それに沿って鉛筆で印を付けます。その印に合わせてジグソーで穴を切り抜いていきます。

 

 

ボディトップ側、バック側共に切り抜けました。

 

 

ヤスリなどでテンプレートの形状を整えます。

 

 

手作業で直線を作るのが難しいです。

 

 

どうにか直線風な形状を作れました。これにてトリマー用のテンプレートは完成。

 

 

ボディトップ側はテンプレートが指板やエスカッション等の上に乗ってしまうので、鉛筆で印を付けた部分を切ることにしました。

 

 

うまく全ての部品を避けて、ボディトップにぴったりとテンプレートがくっつきました。

 

 

ボディバック側は平面なのでそのままで大丈夫です。

 

 

それでは意を決してザグリます。まずは直径25mmのフォスナービットで粗く穴を開けていきます。

 

 

こうすることでトリマーの刃にかかる負荷を減らすことができます。

 

 

恐怖マシーンことトリマーでテンプレート通りにザグっていきます。指がふっ飛んでいかないように手袋をしています。

 

 

1度で最大深度まで切削できないので、まずは6割程度の深さまでザグります。工具の扱いが下手糞がゆえに壁面が既に凸凹になっていますが、ピックガードで目隠しされるので良しとしましょう。

 

 

トリマーのビットを長く出してさらに深く切削します。ボディバック側の板が8mmくらいになるような深さまで削ります。しかし事故はこの後起こりました。

 

 

ボディトップ側のザグリが終了。作業後に確認すると、なんと加工中にビットがズルズルと伸びてしまったようで、ザグリが向こう側まで貫通していました。

 

 

立ち直るまで少々時間が必要でしたが、空いた穴は元に戻りません。後で何かで塞ぐことにして次に進みましょう。

 

 

ピックガードを取り付けてみるとバッチリです。

 

 

ボディバック側も同じ要領で広範囲にザグリました。この時点でギターの重量は4.8kg。ぜんぜん軽量化できていません。まだまだちょっとしたベース並みに重いです。ボディトップには削れる場所がもう無いため、ボディバック側のザグリ範囲と深さを拡大することにします。

 

 

ボディトップ側のパーツを全て外し、土台に平面に設置できるようにします。

 

 

マスキングテープで、「この辺までザグってやろう」という範囲に印を付けます。

 

 

今までと同じ要領で広範囲にザグりました。ストラップピンが刺さっている部分は木を余分に残しています。これでもギター重量は4.2kgほど。まだ深さが足りません。

 

 

トリマーのビットを伸ばし、深さ35mmくらいまでザグりました。トップ側の木は厚さ7㎜ほどになっています。

 

 

内部の仕上げはだいぶ粗いですが、ここに蓋をしてホロウ構造にする事に決めましたので、どれだけ汚くても永久に人眼にはつかないので大丈夫です。この時点でギター総重量3.8kg(パーツ込)。合格ラインです。

 

 

アクリ屋ドットコムで注文した450mm×300mmの厚さ5mmのアクリル板(957円)に穴を開け、トリマーに取り付けます。

 

 

これにより広い範囲でもトリマーが落ちることなくザグることができます。持ちやすいように木の端材でハンドルも取り付けました。

 

 

作業台にギターを固定し、直線にザグるためにストレートエッジでガイドを設置します。

 

 

綺麗に直線にザグれました。深さは5mmです。

 

 

ホロウ部分となる周辺全てを深さ5mm均一で落とし込みました。少々面が荒れている部分もありますが、まあ大丈夫でしょう。

 

 

念のため最適鉋で平面を整えておきます。

 

 

ここに蓋をするのは厚さ5mmのハードメイプル材。お馴染みアイモク様にて、ギター用トップ材を5mm厚に指定して注文したものです。当ててみても綺麗に平面となっています。

 

 

ハードメイプル材に、ギターの形を鉛筆でトレースします。

 

 

大体こんな感じでしょうか。あとで形を整えるので大体で大丈夫です。

 

 

ジグソーで切り抜き、ギターに当ててみてもバッチリ。これで接着して蓋をしましょう。

 

 

接着時に均等に圧力をかけられるように、接着部分と同じような形でMDF板を切り出しておきます。両側から押さえつけるので2枚作りました。

 

 

接着面を240番のサンドペーパーでならします。

 

 

隙間ができないようにタイトボンドをたっぷりと塗ります。

 

 

クランプを使って接着部分に圧力をかけて固定します。今回の作業のためにダイソーでクランプを6個追加購入しました(1個216円)。この大きさのFクランプで挟めない部分は、作業台そのもので挟んでおります。こちらの作業台は万力機能で物が挟めるようになっているのでだいぶお勧めです。

 

 

ちなみにこのクランプ固定の工程で指の肉をザックリやってます。毎度毎度作業のたびに怪我ばかりしています。

 

 

ボディ全体に関わる接着ですので、念のため48時間ほど置きたいと考え、その間にピックガード材の加工に入りました。トップ側のザグリで貫通させてしまった穴を隠すためのパネルです。余りのピックガード材に印を付けます。

 

 

Pカッターで切り出して、外周をヤスリがけして直線にします。断面を斜めにすることで複数層タイプのピックガードにありがちな雰囲気を演出できます。

 

 

ネジ穴を開けます。面取りカッターを持っていないので、7mm径の鉄鋼ドリルの先端で面取りをしました。

 

 

48時間経過し接着が終わりました。

 

 

メイプル材のはみ出た部分をトリマーでトリミングしていきます。削り過ぎてしまわないように、コロが当たる部分に若干の厚みを持たせるためにマスキングテープを貼っておきました。

 

 

それでも失敗してしまいました。削るべきではない部分も削ってしまいました。

 

 

こちらも失敗。ジャック用の穴の凹みのせいでコロが浮いてしまいボディを削ってしまいました。

 

 

多少の事故はありつつも、飛び出たメイプル材を全体的にトリミングできました。金属ヤスリとサンドペーパーを使って角にアールを付けていきます。もちろん目分量です。

 

 

直線で触れ合う部分の表面を鉋がけしておきます。

 

 

すっかり平らになったように思えます。

 

 

削り過ぎてしまった部分などもサンディングすることでどうにか誤魔化せました。

 

 

ボンドの隙間などもなく一安心です。

 

 

塗装に入りますので320番のサンドペーパーで磨きました。もともとオープンポアという木目活かしの塗装だったので、木の導管を埋めるような下地材は塗らず、そのままラッカーで塗装することにしました。

 

 

こちらの本を作った際にESPの先生に教えてもらった通りに塗ってみました。こちらはまず1回塗りの段階。

 

 

15分ほど置いて2度塗りします。さすがESP直伝の技術。2回塗りで大丈夫そうですね。元々の塗装の上にも塗料がかかっていますが、どうせステージで使ううちにボロボロになる塗装ですので細かいことは気にしません。

 

 

2時間ほどたったら透明のクリアラッカーを噴きます。15分間隔で3回ほど塗りました。丸1日置いて塗装は完了です。

 

 

ボディバック側のホロウ部分は木で密封されているので無塗装で大丈夫ですが、ボディトップ側のホロウ構造はピックガードで蓋をするだけですので、念のため外気の影響を予防するために塗装する事にしました。手持ちのワトコオイル(エボニーカラー)です。

 

 

1時間ほど経って沁み込み切らなかったオイルをふき取ってオイルフィニッシュ塗装完了。

 

 

このギターは1年ぶりの稼働ですので、フレットなどもくすんできていました。マスキングを施してピカールとバフで研磨してピカピカにします。

 

 

塗装の方もピカピカにしようかと思い、コンパウンドを使って磨いたところ、どうやら力をかけ過ぎたようで折角の塗装が剥げてしまいました。恐ろしいので磨きは諦める事にします。

 

 

ピカールでの研磨による黒ずみを取るべく、フレット及び指板をライターオイルで拭き上げます。とある有名工房では灯油を使っていまして、その時に教えて頂いたプロのお知恵です。

 

 

その後指板を椿油で掃除。

 

 

仕上げに手作りの蜜蝋ワックスで保護します。

 

 

これにて塗装の類は完了。

 

 

なかなか綺麗にできました。

 

 

ヒールレス部分の塗装も境目がわからないレベルになりました。

 

 

スプレー塗料がトップ側にも回り込んだようで、元よりも若干マットな表面になっていますが気にしません。

 

 

ピックガードを取り付ける時に気が付いたのですが、ピックガードのネジのうち1つが完全に宙に浮いていました。木に刺さっていなかったのです。若干キャビティ壁面にネジが当たっていたので凹んでいます。どうにかしようにも、木が無い部分にピックガード用ネジ穴があけられているので、どうにもなりません。

 

 

計らずしてマットになったトップ面。

 

 

ネック接合部もヒールレスになり、最終フレットまで弾きやすくなりました。

 

 

キューバンマホガニーとハードメイプルの境目で若干木目の違いが見えるボディバック。

 

 

貫通させてしまった穴を隠すパネルも良い感じであると自分に言い聞かせます。元々ベルトバックルによる傷防止のためにバックルガードを設けているので馴染みます。バフで剥がしてしまった塗装も気にしません。

 

 

ホンジュラスマホガニー材で作った木製テールピースは鳴りが良すぎて無駄な倍音が凄かったので金属テールピースに戻しました。

 

 

改造前のギター総重量・・・5.25kg

改造後のギター総重量・・・3.85kg

 

というわけで1.4kgもの軽量化に成功しました。約27%も軽くできたことになります。所有のギターの中では最も重いですが、構造上これ以上削る部分は無く、これが限界でしょう。伝説の銘木が1.4kgもどこかへ消えたと思うと勿体ない気がしますが、削った木くずの大部分はカブトムシ飼育用の発酵マットに混ぜ込んでおいたので、無事に発酵が進めば次シーズンのカブトムシの幼虫の餌になることでしょう。

 

既に5、6曲のリリース作品のレコーディングでも使用し、音の面でもエンジニア氏から高評価を得ています。数々のリハーサルやステージでも使用してみましたが、若干グレッチのようなホロウ臭さがあるものの、かなり好みのサウンドだと感じております。セミホロウ構造が功を奏し、とにかく生音がデカい上に、サスティーンもだいぶ長いです。ハイポジションも引きやすくなりましたし、やはり3.85kgという重量が丁度良いですね。これ以上重いと弾く気が起きません。残念な出自エピソードを持つ「アーティラート」でしたが、これを機に現場でのメインギターとなりそうです。