蜜蝋ワックスの作り方

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何年か前に楽器店で楽器用の「蜜蝋ワックス」なるものを見つけました。 凄く高価だったことを覚えております。その後、気になって蜜蝋ワックスについて色々と調べたりしました。

 

蜜蝋ワックスで調べると、無垢材家具や無垢材で出来た家のツヤ出しや防水、その他保護目的に使用される例がほとんど。 作り方は非常に簡単なようです。自分で作ってしまえばいいという結論に達したので作ってみました。蜜蝋ワックスは古代エジプトまで遡る天然ワックスでありまして、重金属、溶剤、乾燥剤等の添加物の混入は皆無です。その「天然感」や安全性から、未塗装の無垢材に重宝されるのは当然と言えば当然でしょう。木部ワックスとしては最高峰の物とも言われているそうですよ。しかしそれが楽器となるとどうなんでしょうね。未塗装の無垢材のままのギターなんてあるんでしょうか。どこかにはあるんでしょうけれど見た事はありません。エレキギターのボディなんて大抵のものは塗料でコーティングされています。かろうじて指板は未塗装のものが多いですね。

 

調べてみましたが楽器メーカーやビルダーが蜜蝋ワックスの使用を奨励しているという話は見つかりませんでした。しかし楽器を愛する者(個人)が最終的に蜜蝋ワックスに行き着くという話は多く、メンテナンスツールを販売しているメーカーもギターお手入れ系小物として蜜蝋ワックスを割高な値段で販売していたりします。細かい木部の隙間に入って表面を滑らかにし、滑りを良くするのでギターの指版にもぴったりで、塗装が剥がれてしまった木部に塗ることで、湿気の進入も防げるとのこと。納得です。

 

私はもう何年も何年も蜜蝋ワックスでエレキギターのお手入れをしております。ボディ(ラッカーだろうがポリウレタンだろうが)、ネック、指板、塗装が剥がれた無垢材丸出しの箇所など 全体に使用しております。なんなら、全く無意味でしょうけれどテールピースなどの金属部品も ついでに蜜蝋ワックスで磨いています。そんなギター達は定期的に職人やビルダーに診て貰っておりますが、いつも「状態良好」の太鼓判を貰っています。という事は蜜蝋ワックスは悪くないんでしょう。悪くないのならば、こだわりぬいた「良い品」で愛器をメンテナンスしたくなるのは当然ですよね。ちなみに美味しくはないけれど口に入っても平気。手にそのまま塗付してもクリームとしてもイケます。皆で蜜蝋ワックスでギターのお手入れをしましょう。

 


 

 

蜜蝋ワックスの材料は基本的に天然蜜蝋と油のみです。蜜蝋とは、蜂が巣を作るときに分泌する天然の蝋で、花粉の色素で基本的に黄色をしており、ロウソクにしてもススが出なかったり、クリーム系化粧品にも使われたりします。まずは材料と調達方法。

 

■材料

・蜜蝋 ・・・多分なんでも大丈夫。

・荏油 ・・・じんゆ、えのゆ、えあぶら、えのあぶらとも呼ばれる油。要するにエゴマ油。

 

 

写真で言うと右側の黄色い塊が蜜蝋です。

 

これは蜜蝋の中でも希少で珍重されるニホンミチバチの蜜蝋で、 酸化が低くエステル価の高いのが特徴です(エステル価の多寡がギターにどう影響するのかは知りません)。これは養蜂場直営のハチミツ屋(長野県)に立ち寄った時に発見して購入したもの。未漂白の蜜蝋はそれだけで「未晒し」という謳い文句がつく逸品だそうな。でもこれで600円くらいでした。希少で珍重される割には大して高価な物ではないようです。と思ったら同程度の物をネットで探したら 数千円してました。地方の養蜂場直営店舗で無造作に売られていたのが幸運だったのでしょうか。

 

未漂白(未晒し)の何が良いのかは不明ですが、まあ天然自然の成分をウリにするモノをつくるのですから、その原料もなるべく天然の状態に近いものが良い、という理屈は無根拠に頷けるものがあります。蜜蝋は前述のように養蜂場、ハチミツ屋等で売っておりますし、石鹸や天然化粧品などの材料を販売するような インターネット通販ショップ等で簡単に買えます。ビーズワックス(beeswax、蜂の蝋)なんて名前だったりします。色々種類があるので自分の勘で選択しましょう。私は国産で一番天然で手が加えられていないものを選んでいます。なんとなく。

 

写真の左側の缶が荏油です。えのゆ、えあぶら、えのあぶら、エゴマ油なんて名前で販売されています。東急ハンズでこの缶で2000円くらいでしたが、数年分の蜜蝋ワックスを作るのに5分の1も消費できずに余っています。荏油というのは、日本でも古くから伝統工芸の匠たちに愛用されてきた100%植物油です。乾性油に分類され、空気中で徐々に酸化して固まりニス(ワニス)に使用されます。日本では番傘や油紙にも使用されてきたそうですよ。蜜蝋と並んで、こちらも天然無添加で、とても古い歴史がある木材ワックスなんですね。材料に使用する目的としては、硬くて使いづらい蜜蝋に混ぜて柔らかくするため、というのが主です。上記の2つを混ぜるだけで蜜蝋ワックスは出来上がり。ただちょっと配合割合を調整する必要があります。

 

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まずは蜜蝋を15g削って容器(ハンズで購入)に入れます。包丁で削りますが、硬いので気をつけましょう。温めるとやわらかくなるけれど、待てません。強引に切り落としていきます。

 

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次に荏油を85g投入。合計100gですね。比率としては15:85、つまり1対5.6くらい。これだとユル過ぎるという人は蜜蝋の比率を増やしてください。1:4くらいでも全然問題なし。私は塗りやすさ重視でこの比率に行き着きました。

 

※写真のようにこぼれやすいので荏油を注ぐ時はご注意

 

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鍋で湯煎しながら蜜蝋を溶かします。蜜蝋は摂氏65度くらいで溶けてしますので、 そんなに必死になる必要はありません。

 

 

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蜜蝋が溶けたらかき混ぜます。これが混ざった状態。なんとも言えない「良さそう」な色をしていますね。

 

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冷やして固まったら完成です。この比率ですと、暖かいところに置いたバター程度の硬さでしょうか。

 

ギターの場合は指にとって薄く薄くまんべんなく塗って、24時間後くらいに乾いた布で拭き取るといいでしょう。指板に塗るときも薄く薄く。家具や床にも薄く薄く塗り拡げて拭き取る。もしくは拭き取らなくても良いそうです。革製品に使用しても全く問題ないそうですよ。実際に財布やブーツなんかに塗ったりしています。お手入れの頻度としては、年に3、4回ほど塗っています。乾いたクロスや、いらない歯ブラシなどを使ってギター全体のホコリやヨゴレなどを落とし、指板は一応レモンオイルなどでヨゴレを浮かせて拭き取ってから、蜜蝋ワックスを塗るようにしています。

 

この写真は2013年4月製作時の写真ですが、3年経ってもまだまだ有り余っています。保存方法も多分常温で大丈夫です。消費期限も不明です。違和感を感じない限りずっと使える気がします。