もうひとつフィラメントの注意点ですが、フィラメント回路(通常の真空管ならばヒーター回路)だけを組み上げてもアノードは光りません。通常の真空管でしたら、まずはヒーター回路が完成したら点灯チェックを行い真空管が光るのを確認するのですが、Nutubeの場合は光りません。アノード、グリッド、フィラメントすべての周囲に回路を形成してみると(アノード抵抗、グリッド抵抗)、ようやくアノードが緑色に光ります。フィラメント回路だけ組み上げて「光らない!Nutube壊れてる!」と早とちりしないようにしましょう。従来の真空管回路設計に慣れてしまっている人は要注意ですね。
次に増幅回路の設計です。ギターアンプのプリアンプ部を模すということで、半導体などでは増幅させず、Nutubeだけで直列4段増幅させる事にしました。通常のビンテージ真空管アンプはハイゲインタイプでも3段増幅がほとんどですが、12Vですとそこまでの増幅率を見込めないため増幅段を増やし4段としました。
グリッドバイアスが2~3Vの時、12V電源の場合、アノード抵抗を330kにすれば14db(5倍)の増幅率となると書いてあり、またグラフを見れば12V電源の時に2Vのグリッドバイアスでは若干曲線の下部が寝ているので、なんとなく3Vくらいのグリッドバイアスを目指すことにします。またグリッド抵抗での電圧降下分を考慮して、バイアス電源は3.5Vくらいになるようにします。
電源電圧12Vはアダプタの電源をそのまま使いますので、バイアス電源3.5Vを作ります。データシートには「個体差を半固定抵抗などで微調整。一番ゲインが大きく取れる位置にバイアス電圧を設定する」とありますが、回路が面倒になるので無視しました。よって12Vを分圧して固定のバイアス3.5Vを作ることにします。実測ではバイアス電圧3.35Vになりました。大雑把ですが大丈夫でしょう。
あとは基本的な増幅回路を連結して、細かい音のデザインをしていくだけですが、ここで大きな問題に直面しました。Nutubeは増幅段をそのまま直列につないでいくとどんどんゲインが下がり、最後は音が消え去ってしまうのです。データシート上でも、入力段と出力段にFETによるバッファを奨励していますね。これはもうNutubeの内部抵抗だとかインピーダンスに関わる宿命ですので泣く泣く段間にFETバッファを入れます。まあ信号増幅はNutubeだけで行っているので良しとしましょう。せっかくの新世代真空管ですので、ビンテージギターアンプ的に半導体部品は使わないで作りたかったのですが残念。
新世代真空管ですが、従来の双三極真空管とは扱いが全く異なります。各段間にバッファが必要なこともそうですし、何しろ防熱管ではなく直熱管なので色々と設計が面倒です。フィラメントもかなりデリケートで、実はうっかりフィラメントに12V電圧が触れてしまい、高価なNutubeを3つも焼き切ってしまいました(KORG様すみません)。念のため1V以上の電圧はかけないように心がけましょう。そして極めつけはマイクロフォニックノイズ(電極に振動が伝わることによって発生するノイズ)です。尋常じゃないくらいキンキン言います。このあたりの振動対策はNutubeサイトに掲載されていますので、徹底的に実践することをお勧めします。本機は対策が甘いので、振動するとすぐにキーンキーンと鋭いノイズが発生します。
そんなNutubeですが、丁寧に設計すればとても素晴らしい音を出してくれます。さすが真空管ですね。全く同じ動作条件での検証はしていませんが、Nutubeはしっかり真空管の音がすると思います。それと本機は演奏に応じて緑色のアノードの光が明滅します。そこがまた良い雰囲気。