ヤクザに買ってもらったギター

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こんなギターを持っております。現在ではホコリをかぶって全く弾かれていませんが、そこそこの銘器です。以前、このギターを数年ぶりに弾いたことを投稿したら何故か反響が大きくて驚きました。入手当時は雑誌でのコラムを含めほうぼうでその入手の逸話を語ったのですが、備忘録としてテキストにまとめます。

 

 

 

この世にただ1本の愛器グランドリオンを製作する前は、Gibson社のレスポールカスタム(白)をメインギターとして使っていました。90年製くらいの1本で、中古で15万円ほどで買ったような記憶があります。ある日、そのギターのネックを折ってしまいました。記憶は定かではありませんが、多分ステージ上で乱暴な扱いをした結果だと思われます。そのギターを原宿の松下工房(リペアショップ)に持っていき、ネックの修理を依頼しました。数週間経って「修理が終わった」との連絡を貰い、すっかり元気になったギターをバイク(原付)に乗って引き取りに行った時の話です。

 

ネック折れ補修を終えたギターの具合をチェックし、何事も無かったように元通りになったギターを980円で買ったソフトケースに入れ、そいつを背負ってバイクで走り出しました。バイクで走り出して5分以内、原宿から代々木公園の前を通過中の事です。左手にはシルクドソレイユのサーカスが開催されていました。キダムだったかドラリオンだったかアレグリアだったかコルテオだったかゼッドだったかは忘れてしまいましたけれど、ちょっとよそ見してそのテント的な建造物を見てへーなんて思いながら走行してたんです。

 

その時。2台前を走っていた車がなんらかの理由で急ブレーキをかけました。それに応じて私の目の前を走っていた高そうなベンツも急ブレーキをかけてしまいました。横目でサーカステントを見ていた私は、そのベンツのケツのど真ん中にノーブレーキで激しく追突し、バイクから放り出されて地面にズザザーっと倒れてしまったのです。

 

(事故現場は確かこの辺りだったような)

 

体中痛みましたが目立った出血的外傷は無さそうです。そこでハッと気付きました。ギターがッ!周囲を見渡し、近くに落ちていたギターケースを発見し、すぐに飛びつきました。急いでケースを開けてギターを見ると、なんとネックがポッキリ折れているではありませんか。ものの数分前に修理から帰ってきたばかりのネックが。何万円も払って治したばかりのネックが、またしても折れていました。

 

キッ、と事故の原因となった2台先の車を睨みつけましたが、その車はまさに走り去り終えるところで、すぐに彼方へ消えました。まあしょうがありませんよね。私でもそうします。逃げるが勝ちですもの。そして次に、追突してしまった高そうなベンツのドアが開きました。運の悪いことに、中から現れた運転手はこの上なくドチンピラなお兄さん(おじさん)だったのです。

 

その男は物凄いチンピラでした。多少チャラチャラと若ぶったギャル男的風貌もありましたが、どう見てもその筋です。車を出ていきなり「おらぁ!待てよ!」と、走り去ろうとする2台先の車に大声をあげています。その逃亡を見送ったところで、ついに私に近づいてきました。「おい大丈夫か」。頭の中を様々な危機感が駆け巡る中、とにかく被害者にならなくては駄目だと直感的に感じ、体が動かない風を装って(実際体中痛くて動くのが辛かったのですが)、「うう、大丈夫、だと思います・・・そ、それよりギターが・・・!」と言いながらギターをちらりと見せて、大切なギターを折られた被害者であることを密かにアピールしました。折れたネックに絶望的な気持ちになりますが、もしかすると今後の自分が絶望的かもしれないので、まずはこの場をしのがなくてはいけません。

 

と思った矢先。なんという運命のイタズラでしょう。悪魔が謀ったかのようなタイミングで、自転車に乗った1人の警察官が通りがかったのです。こんなことってあるんですね。警察官はすぐに自転車を降りて近づいてきました。これで助かった、と思いました。警察官はヤクザに話しかけ、事故の処理をしようとしはじめました。私も起き上がり、事情を説明しました。あくまで、車が急ブレーキをかけたから追突してしまったという事をやんわりと、しかし熱心に説明しました。自分がよそ見運転をしていたことや、車間距離も充分にとっていなかったことには勿論触れません。

 

しかし事件は一筋縄ではいきませんでした。しばらくして警察官は、ヤクザに「車検証出して下さい」と言ったのです。ヤクザは「あー、あれだ。今無いんだよね。うん。トランクも開かない。車検証は今は無いの、うん。いーよオマワリさん。別に事故にしなくて。俺が彼とてきとーにやっとくから。大丈夫。全然大丈夫。いーよ行って。ほら。いきなよ。いーっていーって」と言いました。なに言っちゃってんだこのヤクザは、と呆れて驚きましたが、もっと驚くべきことが起こりました。なんと警察官は、どこか腑に落ちないような表情をしながら「そうですか」と立ち去ってしまったのです。こんなことってあるんですね。ああ、きっと殺されるんだ・・・

 

これから変な事務所に連れて行かれて、変な書類にサインさせられてお金をせびられるのかなあなんて覚悟を決めようと頑張っていると、ヤクザが言いました。「怪我とかねーか?病院連れてくよ?」。なんと。多少の償いはする気なんでしょうか。もしやこの流れは、助かるかも知れない!と思った私は賭けに出ました。思い切って「体はあちこち痛いけれど、多分平気です。でもギターが折れてしまって・・・」と、ギターが折れたことをできる限り悲しそうに強くアピールしました。するとヤクザはこう言いました「そっか。車乗りなよ。この辺に楽器屋ある?」。

 

ヤクザの運転するベンツに乗せてもらいました。ヤクザに楽器屋までの道案内をしながら、色々話をしました。音楽をやっていること。ヤクザは自分の職業を金融屋だと言ってたこと。この車は預かりモンだから車検証が無く、トランクも開けられなくて助かったわー、なんて言ってました。一体何が入っているのかは知らない方がいいかな、と思いました。

 

渋谷の東急ハンズの目の前の楽器屋に着きました。2016年現在、サイゼリヤが入っているテナントですが、当時は移転前のイシバシ楽器がありました。渋谷のド真ん中です。その店の前に、全く車を道の端に寄せようともせず、他の車にとって物凄い邪魔になっているにもかかわらず、そんな事お構いなしに車を停めて店に入りました。

 

 

(ここにあったイシバシ楽器には高校生の頃からお世話になってました)

 

店に入ると、ヤクザは「どのギター?」と言ってきました。この店に来るまで、具体的に「ギターを弁償する」という言質は取れなかったのですが、やはり予想通り新しいギターを買ってくれるような雰囲気です。思い切って欲を出して、「このギターです」と言ってみました。ドキドキしながら私が指を指したのは、見た目こそ折れてしまったギターにソックリですが、グレードや値段は何ランクも上の「ヒストリックコレクション」というシリーズのギターでした。たしか表示価格は35万円くらいだったような。いけるのか、いけるのか・・・!

 

「すいませーん。これくださーい」。ヤクザが店員さんを呼びます。やった!いけた!折れたギターの倍以上の高いものを買ってくれる!いやー言ってみるもんです。しかも会計中にこちらを振り返ったヤクザは「ポイントカード持ってるか、だって。持ってる?」と言って私のポイントカードにポイントを溜めてくれました。35万円分も。しかもよく見ると財布から現金で支払っています。財布に35万円も入ってるなんて凄いなあと思いながら、さーてこの後どうやってトンズラしようか、ということを必死に考えていました。

 

新品のハードケースを受け取り、店を出ると、案の定道幅が狭くなりゆっくりとしか車が通れなくなった道は渋滞していました。ヤクザは「医者行けよ。明日また連絡するよ。なんかあったら連絡して」と言ってベンツを急発進させて消え去りました。楽器屋に向かう途中で一応簡単に携帯電話の番号だけ交換していたのです。こんなにあっさり開放されるなんて予想外でした。破損したバイクは事故現場に放置したままでしたが、まあそれは後日取りに行こうと思い、折れたギターと新品の高級ギターを抱えてタクシーに乗って帰宅しました。翌日以降もヤクザから連絡はありませんでした。しばらく体中が痛かったですが、新しいギターをタダで手に入れた喜びを考えればなんでもない痛みでした。折れたギターは、もう修理する気も失せたので、とあるバーのオブジェにして貰いました。

 

 

■ヤクザに買ってもらったギターの詳細

Gibson Custom shop historic collection 1968 les paul custom authentic classic vintage whiteという長い名前のギターになっております。手に入れてすぐに色々と改造してしまいました。

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上記掲載のヘッド裏側の写真から、シリアルナンバーは「020448」であるとわかります。Gibsonカスタムショップ製ギターのシリアルナンバーの見方は下記になります。

 


1961-1969 Firebird, Les Paul, and SG reissues (since 1997):
YYRRRM
Y is the production year
RRR(R) indicates the guitar’s place in production for that year.
M is the model being reissued
Reissue model codes:
1= SG Custom and Special
2= SG Standard
3= 1963 Firebird 1
4= 1964 Firebird III
5= 1965 Firebird V & VII
8= 1968 Les Paul Custom

※GIBSONによるシリアルナンバー解説(英語)


 

すなわち、2002年にナッシュビルのカスタムショップで44番目に作られた1968年の復刻モデルであることが分かりますね。以下オリジナルからの変更点。

 

 

ペグ・・・SPERZEL社のトリムロックに交換

トラスロッドカバー・・・よくわからない木製の物に交換

ナット・・・ブラス製に交換

フレット・・・ジャンボフレットに交換

フロントピックアップ・・・DiMarzio社Humbucker from Hellに交換

リアピックアップ・・・Seymour Duncan社Seth Lover modelに交換

コントロールサーキット部分・・・フロントVol、ピックアップセレクター、フロントピックアップのシングルハム切り替えスイッチに改造