レコーディングが多いものでマイクプリアンプ(HA)を自作したいと思っておりました。特に真空管式のマイクプリアンプは製作経験が無かったので、是非とも真空管で作りたいと考えておりました。さすがにエフェクターやギターアンプとは違ってプロユースのマイクプリアンプは繊細な機材ですので(エンジニアがそう求めるのです)、まずは先人の素晴らしきお手本を参考に作ってみる事にしました。
※以下は私が日本で一番参考になると信じている真空管機材の製作技術サイト「情熱の真空管」様に掲載されている「1Uサイズ真空管式マイク・プリアンプ」を参考に製作しており、同サイト管理人木村氏より記事掲載の許可を頂いております。
■電源部分の製作
本当は1Uラックケースに収まるサイズでの製作を目指していたのですが、1Uサイズに入るカットコア・トランスはなかなかありません。そこで、1Uケースは諦めて、以前製作した「真空管オーバードライブ」で使用した筐体にアンプ部を収めることにしました。ということはサイズ的に電源部分は別のケースに入れることになります。電源を別にすることでトランスからの漏洩磁束によるノイズ対策などに躍起になる必要もなくなり、もしくは同電源で使用できる別機材の製作にも夢が広がるということで前向きに考えます。
電源部分の回路図はこちらになります。
電源電圧が異なる5種類のプラスマイナス電源を使用するのでなかなか複雑です。マイナス電源は、ヒーター直流点火用の電源にも兼用します。
まずは248Vと48Vの電源回路を組みます。5P平ラグ板に乗せました。きちんと248V出ています。
コンデンサマイク用ファンタム電源48Vもきちんと出ています。
続いてラインバッファアンプの23.7V電源回路。数値もおおむね近似値で大丈夫そうです。
最後にヒーター直流点火および差動のマイナス電源などに使う-12.6V。写真は極性逆で計測しているのでプラス表示になってます。13Vなら誤差3%なので許容範囲。
電源ケースの穴あけです。ケースはIDEALのCA-100Dで、ラジオデパートのエスエス無線で1458円(税込)で購入したものです。3極インレット用の四角い穴はまずは小さな穴をあけ、それらをニッパーでブチブチと繋ぎ粗い穴をあけます。
その穴をヤスリで整えて完成です。
トランスや機構部品を取り付けていきます。電源トランス同士はそれ自体がノイズ発生源ですので、それぞれの距離は深く考えなくても大丈夫でした。
既に製作しておいた各電源電圧の平ラグ板を取り付け、配線も行います。
蓋をかぶせて電源完成。ヒューズケース付きの電源コネクタにしたのでヒューズはその中です。
プリアンプ部に電源を送るケーブルも自作しました。DIN5pinジャックを採用したのでMIDIケーブルなどをそのまま使用できるのですが、一応248Vの高電圧や、ヒーター用の大電流が流れることを考えてオヤイデ電気で太めのVCTF5芯ケーブルを買いました。
■プリアンプ部の製作
続いてプリアンプ部の製作です。回路図はこちらになります。
全段プッシュプル、初段は定電流回路を使った差動アンプとなっています。うしろの方は半導体式のラインバッファアンプです。
穴をあけたケースに機構部品などを取り付けます。見た目が好きなので、70年代西ドイツの模型メーカー「MARKLIN(メルクリン)」製のコントローラーのケースを使用しています。非常に硬いので加工が大変です。
外側はこんな感じです。「真空管オーバードライブ」の時と同じく、筐体内部に2本の真空管を収納したかったのですが、スペースの都合上今回は外に露出させることになりました。この珍奇な見た目も気に入っています。
入力周り、ファンタム電源周辺の部品を取り付けます。機構部品への直付けや空中配線が大好きです。
その他直付け可能部品やヒーター電源を仕上げます。
ヒーター電源の配線が終わったらいつも必ず点灯チェックを行います。無事に真空管が点灯。
真空管周りの回路を仕上げます。できる限り機構部品直付けで、必要な部分には少しのラグ板を使用しました。
ラインバッファアンプ回路は細かいので基板上で組みます。ギターエフェクターを作っているとトランジスタやFETはソケットで取り付けたくなるものです。いざというとき交換が楽ですからね。
ソケットに半導体を差し込みます。この時点で向きを間違えている素子が2つあり、あとあと大変な思いをしました。極性には気を付けましょう。
3mm太のボルト、ナット、スペーサーを使って出来上がったラインバッファアンプの基盤を筐体に取り付けます。
完成した内部。
プリアンプ部と電源部と接続ケーブル。
スイッチでMIC入力とモノラルフォンプラグによるINST入力が切り替えられます。ジャックはコンボジャック。左上はファンタム電源スイッチ。
GAINスイッチで30db、40db、50dbを切り替え可能。その後真ん中の大きな赤いつまみでレベルを調整します。
基本的に、HOT側とCOLD側の同じ値の部品はなるべく実測して誤差の少ない部品を使っています。部品は手持ちの物を使い、新たに買ったものはほとんど千石電商で購入できる日本製の部品を使っています。半導体などで手に入りにくかったものは「情熱の真空管」様の部品頒布にお世話になりました。
初段定電流回路の定電流素子は定電流ダイオードの代わりに低雑音JFETの2SK30AのOランクからIdssが0.9mA~1.0mAのものを使っています。JFETのG(ゲート)とS(ソース)をショートさせると定電流特性が得られるという性質を利用しています。ラインバッファアンプの定電流素子もIdssが4mAの2SK30を分けて頂きました。
ピークインジケーターは、約60Vで放電開始するというというネオンランプの特性を利用しています。
非常に素晴らしいマイクプリアンプです。スタジオエンジニア様数名にブラインドでレビューをして貰いましたがとても好評でした。何十万円も出してスタジオ定番業務用プリアンプを買うよりも、材料費2万円以内でこれを作る方がよっぽど良い!と思いますがそれは自作機材への愛着でしょうか。いつもスタジオで使っているオールドNeveなど数々の名器とも比較テストをしましたが、個人的にはこちらが好みです。製作後すぐに現場で使用し、様々な作品の音作りに活躍しております。