真空管オーバードライブの製作

普段ステージやレコーディングではエフェクターを使用せずに真空管アンプだけで音作りをしています。結局真空管アンプの音が好きなんですね。それならば真空管ギターアンプのプリアンプ部分をそのまま抜き出したようなエフェクターがあれば良いと思いまして、真空管でオーバードライブを製作してみました。

 

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きっかけはゴミ捨て場での出逢いでした。自宅マンションのゴミ捨て場にゴミを出しに行くと、隅っこに見慣れない物体を発見したのです。その見た目に一目惚れしてしまい、迷わず頂戴してきました。ゴミの持ち去りは、悪質な場合は窃盗や拾得物横領の罪に問われる事もあるそうですが、もしそうなら償います、すみません。

 

 

こんな可愛い物体があったら持ってきてしまいますよね。調べてみると70年代西ドイツの鉄道模型メーカー「MARKLIN」のコントローラーだそうです。このケースがかなりお気に入りになってしまい、後日再度同じ物を入手して真空管プリアンプを製作しました。

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こいつの中身をくりぬいて、部品取り付け用の穴をたくさん開けます。

 

 

本機の回路図はこちら。作りながら書き足しなどしたので見づらいです。それよりも字が汚くて見づらいですね。自分では結構丁寧に書いたつもりなんですが、どうも世間的には字が下手な部類に入るそうです。

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私の普段使用している真空管アンプのプリアンプ部をそのまま抜き出したような回路になっています。駆動電圧が違うのでそれに合わせて各所定数を変えていますが、大まかな構成は同じです。

 

 

特徴は電源回路ですね。低電圧駆動の真空管エフェクターは無数にありますが、やはり真空管は数百Vでドライブしてなんぼだと思っていますので、高電圧電源にすることにしました。しかし100V入力の高電圧回路を組む場合トランスのサイズがネックになります。エフェクターですのでなるべくコンパクトにしたい。そこでひらめいたのが以下の危ない方法です。

 

こちらのトロイダルトランスを使います。

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このトランスは交流115Vを入力すると交流9Vを出力してくれる回路が2つ入っています。これを逆向きに使うのです。交流9Vを入力すると交流115Vが出力されるんですね。しかもそこへ交流9Vではなく、交流12Vを入力し、さらに出力2回路を直列につなぐとどうでしょう。なんと交流380Vが発生しました。交流12Vは秋葉原で購入したAC12V(2A)出力のACアダプタを使っています。12Vが380Vになるなんて興奮しますね。

 

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※この時点でだいぶルール違反を犯しており、危険なことをやっておりますので完全に自己責任でお願いいたします。真空管回路はヒーター電源やパワーアンプ部で多くの電流を必要としますが、プリアンプ部の消費電流はわずかなものです。ですので今回のようなマナー違反電源回路が成り立ちます。「小電流回路」だからこそできる荒技です。ですが今まで数々の現場で長時間使用していますが1度もトラブルは発生していないことをここに明記しておきます。

 

 

さらに交流12Vの入力をそのまま流用すればヒーター電源になりそうです。小さな筐体に詰め込むので、ヒーターハムノイズの心配があったため思い切って直流点火にしてみました。直流整流回路(回路図最下部)が増えますがメリットの方が大きいと思ってのことです。アダプタからそのままブリッジ整流していますが、大昔のトランスレス真空管製品のような危なっかしさがたまりませんね。

 

 

そして完成。

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回路定数をいじれるように増幅段やトーンコントロール部の部品は全てソケット式にしておきました。色々組替えて音を調整できます(完成後1度もしていませんが)。

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一応真空管にはノイズシールドとしてカバーを付けましたが、無くてもノイズはありませんでした。

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一応トランスとの距離やアースラインや真空管の位置、そして真空管のヒーター点火方法や整流回路に労力の大半を割いております。とてもローノイズなエフェクターです。

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キラキラしたクリーントーンから、ディストーション並の歪みまで出せます。部品はいつもの如く80年代のアンプや壊れた液晶TVとかラジオの部品など、つまりなるべく廃品を利用しています。電源トランスや大型の平滑コンデンサ以外ほとんど材料費ゼロ円でした。

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こちら外観。手前の度グルスイッチは主電源です。この程度の回路ならばスタンバイスイッチが無くても大丈夫です。

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10mmという大きなLEDを取り付けてレトロ感を演出しています。

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本機右下のフットスイッチはもちろんエフェクトONとBYPASSを切り替えるスイッチ。その上の黄色いLEDはエフェクトON/BYPASSを視認するためのもの。

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回路図だけ見れば太古のマーシャルだとか、フェンダーなどのプリアンプ部と大枠は一緒です。ORANGEやDUMBLEやMATCHLESSなど、大体がこの系統の回路構成です。そこから様々なアイデアで各社音を変えているんですね。MATCHLESSの真空管プリアンプ「HOT BOX」等も本機の方向性とソックリです。

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