ステップアップトランス

ステップアップトランスの意味と、その自作方法、その他電源電圧の話などをまとめておきます。

 

 

 

海外製アナログ音楽機材を使う場合、ステップアップトランスが活躍する場面が多々あります。日本のコンセントに供給されているのは交流(AC)100Vですが、米国のコンセントでは交流115Vになりますので、米国向けに作られた機材はその電圧(115V)で正常動作するように設計されているんですね。そういった海外機材を日本の100Vのコンセントに差し込んで動作させると、設計時に想定された動作にならないのです。

 

※ちなみに米国の機材の電圧表示は115V、117V、120Vの3種類がありましてややこしいですが、一応米国の正式な公称電圧は120Vとなっております。しかし実際は数パーセントの誤差があり、しかもコンピューター機器のアダプタには115Vと記載されている場合も多く、決め手に欠けるのが実際です。下記リンクを比較してもらえれば分かるように、海外情報に長けた2サイトでもアメリカ電圧に差異があります(他の国でも異なってます)。ここでは「公称電圧120V」を信じて話を進めます。

 

世界各国の電圧その1(ビックカメラ調べ)

世界各国の電圧その2(世界の歩き方調べ)

 

 

 

供給電圧が低くて故障する、ということはトランス式のアナログ音楽機器ではなかなか起きませんし、電圧が低くても一応は動作しますけれど、やはり本来の期待するべき効果を下回っては困りますので、海外機材はきちんとその国の電圧で動作させる必要があります。海外機材の中には入力電圧を選択できる場合も多く、その場合はその国の電圧に合わせて使用すれば良いのですが、残念なことに日本の100V入力が可能になっているものは多くないんですね。多くはアメリカやヨーロッパの電圧に合わせて110V、115V、117V、120V、200V、220Vなどが選べるようになっておりまして、日本の100Vという電圧がいかに異端であるかがわかります。

 

 

 

まともなレコーディングスタジオなどの壁には必ず普通のコンセントと赤いコンセントがあります。普通の方は100Vですが、赤い方は117V(120V)が供給されています。そこに海外製の機材を差し込んで何の問題も無く使用します。しかしこういった赤いコンセントが用意されていない場所も多いので、そんな時にステップアップトランスが活躍することになります。

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ステップアップトランスには電源入力と電源出力がありまして、まずは入力の部分を100Vの壁のコンセントに挿します。そうするとステップアップトランスの出力側のコンセントには交流120Vの電流が流れるようになります。そこに海外製の機材を差し込んで使うんですね。

 

 

ステップアップトランスの作り方は簡単です。トランスを買ってきて配線するだけです。素子を使って回路を組むこともありません。何故なら、ステップアップトランスはトランスを自分で巻いて自作したりしない限り、「ステップアップトランス」を買ってくるしかないからです。何やら禅問答のようですね。

 


 

■ステップアップトランスの材料

・トランス・・・一次側100V:二次側120V

電流量5A(電流量は接続する機材に合わせて選択します。100Wの真空管ギターアンプを1台接続するならば5Aあると安心です)

 

・インレット・・・電源ケーブルを差し替え可能にするために必要

 

・ケース・・・トランスが入る頑丈なもの。

 

・配線材・・・大きな電流が流れるので、太くて丈夫なものがいいです。

 

・ヒューズとヒューズソケット・・・無くても平気ですが、念のため保護用に有った方がいいです。

 

・スイッチ・・・回路を反転させない場合は不要。

 

・LED・・・通電確認用にあったほうが無難。

 


 

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100V電源を120Vに昇圧するステップアップトランス完成。入力は外部電源ケーブルを使用できるように3極インレット。出力は3極で2発。過電流遮断ヒューズ、電源ランプ搭載。スイッチを切り替えれば、120V電源を100Vに変換。ほとんど出番のない機能でしょうけれど、一応USA用。

 

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実測入力電源102.5V。日本使用モードでは出力は122.1Vに。

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スイッチを切り替えれば100Vが84.8Vに降圧。

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ということは83.1%。つまり120V電源を入力した場合には100Vに降圧できるのです。まあ使わない機能だと思いますけれどね。

 

インレット3つで500円くらい。ランプ100円くらい。スイッチ100円くらい、ケース1300円くらい、5Aトランス3000円くらい、ヒューズ10円くらい。全部で5000円くらい。製作時間2時間(ケース加工1時間)。楽器用で売られている物より遥かに安く高性能です。自作を強くお勧め致します。まあ私は身の回りの主力機材のほとんどが自作であり、その全てを国内100V仕様で製作しているので、ステップアップトランスを使う機会が滅多にありません。今回は、先日友人に頂いた海外機材を最大限活用するために製作しました。今後当分出番は無さそうです。勿体無い。

 

以上のように、要するに変圧用のトランスを使いやすく配線したものがステップアップトランスの正体なのです。多くのミュージシャンがそうとは知らず、ギター用や音響用の無駄に高価なステップアップトランスを購入してしまうのですが、旅行用、楽器用、工業用問わず、コンセントの電圧を120Vにして出力するのがステップアップトランスの機能であり、音楽用などのくくりは有りません(品質の良し悪しは若干ありますが)。

 

まずはトランスの選び方。重要なのは一次側電圧と二次側電圧、そして電流量(A)です。高級化、音響用化の方法は無限にあります。ノイズ対策にケースにこだわるとか、シートを貼り巡らすとか、ハンダにこだわるとか、配線材を銀にするとか、高級なトランスを使うだとか、何やら効果はわからないけれど良さそうなものを使いまくれば音響用になります。余裕のある方は色々試して音の違いを科学的に検証してみて下さい(私はごくごく普通のトランスをしっかり丁寧に配線するだけで満足しています)。

 

ところで120Vで動作するように作られた音楽機器を日本の100V電源で使用すると実際どうなるのか。単純で乱暴な言い方をすれば「元気のない音」になります。真空管ギターアンプを例にしますと、まずギターアンプに入力された交流120Vは直流400V以上の電流(B電源と言います)に整流されます。その高電圧のB電源によってパワフルなギターサウンドを生み出すんですが、それを100Vで動作させると、100÷120で単純に0.83倍に下がってしまい、2割近くもパワーが電源電圧が落ちてしまうんですね。本当は交流を直流に整流しますので√等が出てくる難しい計算になるのですが、大体そんなものだと思ってください。

 

真空管アンプというのはきちんと動作電圧を計算して設計されますので、供給される電圧の誤差が20%にも達すると全然ダメなわけですよ。B電源だけではなく、真空管のヒーター電源(A電源)も同じく2割低下しますので、真空管自体を温める力も低下し、増幅率も下がります。マイナスのバイアス電源(C電源)も弱くなりますので、バイアスが浅くなって、もう内部の動作はめちゃくちゃになってしまうのです。全く余談ですが、80年代のMarshall製アンプを中古市場で発見して入手した際に、当時の日本の代理店の正規品ですので100V仕様で安心していたのですが、中を開けてびっくり。トランスの電圧セレクターの220Vと240Vを取り去り、120Vを100Vと表示しているだけでした。計測してみると案の定ヒーター電圧は5.4V程度。正規の動作電圧が出ていない状態で普通に日本市場で売っていたんですね。恐るべし日本楽器(YAMAHA旧社名)。

 

それなら高い電圧をかければパワフルな音が出る!と勘違いして国産機材を120Vで動作させたがる人も多いのですが、その場合は高い電圧用に回路を設計しなおさなくてはダメなのです。そのままの設計で闇雲に高電圧をかけると、各所で非効率な動作が生まれ、逆に音が潰れてパワフルとは逆の方向に行ってしまうこともしばしばあります。まあ音が悪くなるリスクよりも、故障するリスクの方を懸念すべきですけれどね。

 

電源がレギュレータによるIC制御であったり、定電圧回路が組まれている機材は、想定より少しくらい高い電圧ならばきちんと目標の電圧にしてくれますけれど、それでも低い電圧を昇圧することができない場合がほとんどです。よって定められた電圧で動作させなくてはいけません。

 

たまに「海外レコーディングやマスタリングの音が良いのは、電圧が高いからだ」なんて恥ずかしい事を言ってしまう人々がいますけれど、アメリカLAで鳴らすマーシャルアンプと、日本仕様の同じマーシャルアンプを東京で鳴らすのでは、各所の内部電圧や動作は同じですからね。そういう風に作られています。アメリカの高電圧だから音が良いなんてことはありません。業務用機材の設計はそんなに甘い感覚で作られていません。整流回路できちんと同じ直流電圧に変換されています。ちなみに周波数も関係ありません。アメリカ、カナダ、メキシコ、は西日本と同様60Hz、イギリスは東日本を同じ50Hzです。日本も海外と同じ周波数ですね。

 

ところで海外のコンセントは電圧も差し込み口の形状も異なるから、海外旅行の際には変圧器とコンセント変換アダプタを持って行かなくてはいけない!なんて時代はとっくに終わってしまったようですね。現在ではノートPCの電源アダプタや、携帯電話の充電器などの多くが100Vから220V対応になっていまして、今となっては変圧器無しで海外旅行ができる時代です。デジタル機器のほとんどは電源部分や電源アダプタ部分などに「AC100V-220V」なんて書いてありますので、海外旅行前にチェックしてみると良いと思います。