電圧可変パワーサプライの製作

 

 

自分のバンド用、バックバンドサポート用、それぞれのステージ用のペダルボードには当然パワーサプライ(電源供給機)は搭載されているのですが、ボードにガッチリと固定されているため取り外しは非常に面倒臭いです。レコーディングの際は、楽曲や音色によって使用する機材が変わってくるため、固定のボードを組んでいないので、いつもその辺に転がっている電池だとかサウンドハウスで買ったノイズまみれのDCアダプターを使ったりしています。どうにかならないものかと不満に思っていたのですが、もう1台パワーサプライがあれば解決するという事に最近気づきまして、これは自作するしかないと決意しました(余程のことが無い限り機材を「買う」という発想には至りません)。

 

普通のパワーサプライはいくつか作ってきたので、少し変わったものを作りたいと考え、電圧を可変できるパワーサプライにする事にしました。世間には9V電源と言いながら、きっかり9Vの直流電圧が出ていない電源が多いので、その辺りをきっちりコントロールできるものが良いと思ってのことです。上は12Vくらいまで出れば、12Vエフェクターにも使えるし、下は5Vくらい出せれば劣化した電池の音を再現できるので柔軟な用途に対応できるはずです。

 

というのは完全に建前で、そもそも12Vエフェクターなんて世間に少ないですし、何より自分は所有していません。わざわざ劣化した電池の低電圧を再現したくなる事も生涯無いと思われます。その辺りは、単なる「自作欲」の為の可変範囲ですので、個人的には9Vきっかりを供給して満足したい、という事に尽きます。

 

材料もなるべく自宅に転がっている物だけで済ませたいので、必然的にその部品群に合わせた設計となります。まずは小さな電源トランスがあったので、その2次側電圧に合わせて設計する事にしました。3芯ACケーブルでそのままコンセントに挿すことができれば、ACアダプタが1つ省けます。3芯ACケーブルなら大体どこのスタジオにも転がっていますからね。やたら高価な電源ケーブルにこだわりたいタイプの人達にも嬉しい設計かも知れません。

 

 

トランス2次側に交流15V、0.1A(100mA)を2回路備えていますので、それを並列に繋げば交流15V、0.2A(200mA)の出力が得られます。整流して直流にすると細かい計算で少し変わりますが、簡単なアナログ歪み系ペダルなら数十台接続できます(BOSSのDS-1は公表消費電流4mAなので理論的に50台接続可能)。消費電流の多いデジタルエフェクターなどは物によりますが数台つなげられそうです。業務用パワーサプライでしたらもう少し電流量が多い方が良いですが、自分の用途を考慮するとこれで十分。

 

 

可変レギュレータにはNJM317Fを使用しました。1.5A流せますので、今回の設計ならば余裕です。可変電圧範囲も1.25V~37Vと十分な幅がある素子です。回路設計に関しては回路図を掲載して後述しますが、まずはデータシートで公開されている通りの回路で電圧を実験。電圧を決定する抵抗値を色々試し、1kΩの可変抵抗器で電圧を可変させることにしました。ツマミを絞り切って直流4.3Vの出力。

 

 

最高で13.3Vの出力になりました。実際に回路を構築したりエフェクターをつなぐとこの値も変わってくるでしょうが、概ね理想通りの可変幅です。

 

 

筐体はドイツの鉄道模型メーカーMARKLIN(メルクリン)の大昔のコントローラー。以前自作した真空管オーバードライブや、真空管マイクプリアンプでも使っているお気に入りで、見かけるたびに買っておくようにしています。鉄道も鉄道模型も全く興味がありませんが、このデザインは素晴らしい。

 

 

こちらが使用部品。すべて自宅にあったもので新規購入はありません。とは言え、買い揃えても2000円に満たないのではないでしょうか。

 

 

実際に回路を組み上げて計測すると、最高電圧12.93V。良い感じです。NJM317Fは発熱するので黒いヒートシンクを取り付けて放熱するようにしています。

 

 

回路はとても簡単。しかしとてもローノイズ設計のクリーン電源です。

 

 

結局大変なのが筐体加工です。電源出力は8個にしました。この数はスペースが許す限り無限に増やせます。

 

 

3極インレットの四角い穴の加工は大変です。

 

 

小さく空けた穴をニッパーで繋いだ後、ヤスリでひたすら削って形を整えます。頑丈な鉄製の筐体なのでかなり体力を使います。

 

 

出力DCジャックとLEDの配線を済ませました。

 

 

作っておいた回路を組込みます。一応100V機器になるので、主電源スイッチを搭載し、不使用時に電源を落とせるようにしておきました。

 

 

パワーサプライとしての機能は完成。しかし、可変した電圧が何Vなのかわからないようでは意味がありません。

 

 

電圧計を搭載する事にします。Amazonで販売されている150~400円くらいの中華製液晶電圧計を買ってみたのですが、同じ電池に接続しても誤差があるようで、それぞれ異なる電圧値を表示します。テスターと同じ値を表示していたこちらの電圧計を使うことにしました。関東地方への送料無料で173円とは安い。ただ物によっては、このデジタル電圧計自体がノイズ発生源となることがありますので、気になる場合は電圧計のON/OFFスイッチも搭載するべきかもしれませんね。電圧を決める時に電圧計をオンにし、電圧を決めたら電圧計をオフにしてノイズの無い電源を楽しむ、といった感じで。もしくはアナログ電圧計を使うのも良いかもしれません。

 

 

ここでも四角い穴を開けなくてはいけません。すでに搭載されている電源ランプを避けて穴を開けます。

 

 

よくよく考えてみると、この電圧計の表示そのものが電源ランプ代わりになるので、LEDは不要でした。

 

 

無事に四角い穴を開けて電圧計をハメ込みました。乾電池をつないでみるときちんと電圧が表示されています。

 

 

配線を終えて完成。ツマミを回せばきっかり直流9Vが出力されます。計測しているのは回路の最終電圧ですので、ここに表示されている電圧がそのまま供給されている電圧となります。

 

 

基本的な回路はNJM317Fのデータシートに記載されている回路そのままとなりますが、その周辺に様々なものが取り付けられています。まずは100V電源から電源トランスに入るところでスイッチがあります。それをONにするとトランスに電流が供給され、2次側から交流15V、200mAの電流が出力されます。それらをS1NB60というブリッジダイオードで直流に整流し、大容量のC2でリプルを除去、その後NJM317Fに入力されます(C1はおまじない)。

 

出力される電圧値の決定は、R1、VR1、R2で行われています。データシートに記載されている出力電圧の計算式をこちらの回路図に当てはめると

 

基準電圧×(1+(VR+R1)÷R2)=出力電圧

 

になります(かなり大まかに変換していますが概ねこれでいけます)。NJM317Fの基準電圧は、データシートによると通常時1.25Vです。この回路ですと大体4~12Vくらいの範囲で可変できますね。出力にはダメ押しとして大きめの電解コンデンサ(C4)を付けましたので、さらなるリプル除去に一役買っています。

 

 

早速様々なリリース作品で使用しています。今のところの使いかたでは乾電池並みにノイズの少ない電源のように思えます。

 

 

ツマミを左に回せば低電圧。

 

 

右に回せば高電圧。

 

 

8台も繋ぐ日は来るのでしょうか。

 

 

3極インレットですので、PCやディスプレイのケーブルがそのまま使えるので楽です。

 

 

1Vそこらの誤差では音も気になりませんが、きっかり9Vを供給できると、とても晴れやかな気分になります。大半の9Vエフェクターは、電圧が6Vだろうが11Vだろうが、ほとんど音に変化はありませんでした。メーカーに奨励されていない過電圧を加えてみるのも良いですが、音の面では大したメリットも無いので面白くはありません。