■目次
ギター自作その3「フレット溝切り・ナット切り出し・指板接着など」
ギター自作その5「ヘッドネック・ブリッジテールピース・ナット溝切りなど」
ギター自作その6「ピックアップの自作」 ←今ここ
ギター自作その8「ピックガードやノブの製作・キャビティの座繰り」
せっかくの手作りギターですので、ピックアップも自作してみようと思いました。ピックアップというのは、大雑把に言えば磁石の周囲にコイルを巻き、それにより金属弦の振動を電気信号に変換しアンプへど送る装置。磁石に導線を巻くだけでいいわけで、あとはそれをどこまでクオリティ高く作ることができるかが問題になります。
ピックアップのコイルは通常エナメル線を数千回巻き付けるものですので、ピックアップワインダーと呼ばれる装置が必要になります。ピックアップワインダーはハンドル式の手動の物や電動の物がありますが、どちらも巻き方のテンション(引っ張り・強さ)をコントロールできるので大差ありません。結局は巻く人間のノウハウや経験や勘によるところが大きいのです。
まずはピックアップワインダーを用意しようと思いましたが、安い物や中古でも数万円くらいするので、今後どれくらい行うかわからないピックアップ製作のためにワインダーを買うのは馬鹿馬鹿しいと感じまして、この際だから自作する事にしました。
YouTubeでピックアップ自作動画を見てなんとなくの構造を把握し、要するに回転する動力と土台、そしてその回転速度を制御できる仕組みがあれば良いということがわかりました。そこでまずは秋葉原の秋月電子通商でDCモーター速度可変キット(500円)を購入しました。とっても簡単な電子回路です。回路が理解できなくても、付属の説明書通りにハンダ付けすれば1時間とかからない回路でしょう。
キットでは半固定抵抗器で速度を可変していましたが、それを通常の可変抵抗器に交換してツマミも付けました。モーターはRE-280Aという130円のものを選択。9V電池での使用を例に作られたキットですが、エフェクターなどで多用されるセンターマイナスDC9V電源で動くようにしました。12V電源ですと回転が速すぎたので9Vか5Vでも良いと思います。赤いプーリー(車輪のようなもの)は千石電商で購入したものです。レインボープロダクツの輪ゴムプラプーリーという300円くらいのラインナップですが、私の購入時は通販サイトには掲載されておらず、実店舗のみで購入可能でしたのでご注意。
次に東急ハンズで適当な金具を購入し、適当に切断します。こちらのハイスパイマンという金属ノコギリがお勧めです。時間がかかりましたがステンレス材からナットを切り出すのもこれで頑張りました。
その辺の端材を台座にして取り付けます。
ハンズで購入した金属パイプを取り付けます。
ステンレスのシャフト(棒)にプーリーを付けます。この白いプーリーはタミヤ模型の激安多用途プーリーです。
手持ちの金具を組み合わせてコイル用ワイヤーのガイドも設置しました。
端材にモーターを固定して結束タイやボンドなどで乱暴に固定します。
続きまして電卓を用意します。
分解します。
ボタン部分をむき出しにします。
ボタン部分のスイッチ部の接点に線材を無理やりハンダ付けします。
そしてすべてを元に戻します(4のボタンは分解中に紛失しました)。こうすることで「=」ボタンを電卓外部に露出する事が出来ました。電卓というのは、「1+1」の後に「=」を連打すれば数字が1ずつカウントアップしていきますよね。それをピックアップワインダーの巻き数カウンターにしようと考えたのです。この写真の黄色い線の先端同士を触れさせるごとに数字が増えていきます。これをワインダーの仕組みの中に組み込めば回転数計になるというアイデア。
そんな多くの手作り系ピックアップ製作者が実践しているアイデアでしたが、なんと今回作ったワインダーの回転速度とこの電卓の反応速度が合わず、カウンター搭載は断念しました。目分量で頑張ることにします。念のためこんなアイデアもある、という記録のために残しておきました。
さて紆余曲折を経て格安ピックアップワインダーの完成です。タミヤの白いプラプーリーは作りが貧弱でしたので、結局すべてレインボープロダクツの輪ゴムプラプーリーに変更しました。ツマミを絞り切るとモーターの動きが止まり、ツマミを開いていくと回転速度が上昇していきます。モーターから先の回転の仕組みは写真を見れば一目瞭然かと思います。
次はピックアップのボビンを自作します。aimokuでインドローズの一番安い指板材を購入し、厚さ2mmに加工したものを送って頂きました。aimokuは購入時に厚さ加工を無料で行ってくれます。指板材という硬い木を選んだのは、板の厚さが非常に薄いため柔らかい木ではすぐ折れてしまうため。
自分でデザインしたピックアップの形を当ててみます。
印をつけます。フロントはシングルコイル、リアはハムバッカーのピックアップを製作します。
糸鋸盤で大雑把に切り抜きます。苦手な糸鋸盤も今回は多少うまくいきました。
ヤスリで形を整えます。
上部と下部を重ねて磁石を差し込む穴を開けます。
リア用のハムバッカーはシングルコイルを2つ組み合わせるので、真ん中で切断して後で元に戻します。
そのままでは安っぽいのでオイルフィニッシュで塗装しました。使用した塗料はWATCOのエボニー色です。
念のため24時間乾燥させます。
ピックガード(後の項目で製作)の穴に合わせてサイズに問題無いことを確かめました。
リード線をハンダ付けするためにハトメラグ(1個6円)を取り付けます。穴の径は2mm。
このハトメの位置ですが、気を付けないと後々コイルに干渉したりするので入念な計画の元で位置決めしましょう。私は何も考えずに開けてしまったので非常に苦労しました。
次に磁石を用意します。ピックアップ用にはアルニコ磁石がポピュラーですが、フェライト磁石(セラミック)も人気があります。手に入りやすい磁石ですと、他にはネオジウム磁石がありますが、実際に購入して試してみると弦振動を強制的に止めてしまうくらい強力だったので避けることにしました。磁力が強いとピックアップの出力が上がる傾向にありますが、ここまで強すぎるのはダメですね。
アルニコ磁石はアルミニウム (Al)、ニッケル (Ni)、コバルト (Co)を合わせたもので、自然に磁力が衰退していきます。ピックアップ的にはそこが味でもあるのですが、今までに経年でいくつもピックアップの出力が落ちてしまった経験があるのであまり歓迎できません。
そこでフェライト磁石を採用する事にしました。フェライトは昭和5年に日本人が発明したもので、それだけで選びたくなるというもの。アルニコとフェライトでの音の違いは諸説ありますが、科学的に見ればオーディオオカルトの範疇ですので気にしません。高級な抵抗器を使えば音質が向上すると考えている方にはアルニコ磁石をお勧めいたします。
ギターピックアップに適したサイズの円柱形のフェライト磁石はなかなか無いもので、散々探して二六製作所というところで直径5mm×高さ8mmの40円くらいの物を見つけました。写真に角柱型のものが映っているのは、当初は珍しいピックアップを作りたいと思い角柱型磁石で作ろうと思っていたからなのですが、購入後に等方性フェライトであることに気付き使えませんでした。等方性フェライトは磁力が異方性フェライトの半分で、吸着力は4分の1なのです。
購入した円筒形の磁石を2つ接着剤でくっつけてちょうど良い長さにし、板に差し込んでいきます。差し込んだ後に少し接着剤を塗って固定します。フロントピックアップは上部にS極が来るようにしました。いつもフロントピックアップとして愛用しているDimazio社のTwang King Neck(DP172)がそうなっていたからです。
上部の板も接着してフロント用のボビンの完成です。
磁石はむき出しで大丈夫です。ハトメラグはコイル巻の時に引っかかるので外しておきましょう。
ボビンのハトメ穴にエナメル線を通して裏側でマスキングテープ止めします。ピックアップ用のコイルワイヤーはオヤイデ電気で直径0.05mmの太さのエナメル線を購入しました。ピックアップには0.05mm~0.07mmの太さや、AWG42~43の太さの線がよく使われますが、髪の毛と同等かそれ以下の細さの絶縁コーティングがされている電線なら何でも大丈夫です。このワイヤーは絶縁ワニスが塗られていて、ハンダ付け時にコテの熱で勝手に絶縁皮膜が溶けるので、わざわざ皮膜を剥く必要がないという便利なもの。
強力両面テープを使って赤いプーリーにボビンをくっつけます。粘着力が弱いと回転でピックアップがふっ飛んでいくので要注意です。4回ほど飛ばしてしまいました。
あとはツマミで速度を調整して満遍なく巻いていくだけ。均等に巻くべきなのか、真ん中を盛り上げるべきか、キツく巻くべきか、ユルく巻くべきか、その辺は各社独自ノウハウなので正解はありません。きちんとキツく巻くと音がタイトになるという説には納得できますが、真ん中にたくさん巻いて膨らませると中域がどうのこうのという説には懐疑的です。科学的根拠が欲しいですね。
出来る限り丁寧に巻きます。右手にティッシュペーパーの切れ端を持って、それでワイヤーを挟んでシュルシュルと滑らせるとスムーズでした。写真はありませんが、膝を開いてその真ん中に台を置いて、ワイヤーのボビンを縦に立てておけばするするとワイヤーがほどけてワインダーに巻かれていきます。
ハトメ穴のほんのわずかな出っ張りにもワイヤーが引っかかって切れたりします。髪の毛よりも細いので不注意で簡単に切れます。切れたらお終いです。絡まりに気付かないまま完成した場合も全てが台無しになるので、そんな時は泣く泣く線をほぐして全部捨て、再度やり直しです。
巻き数計を搭載できなかったので、市販のピックアップの量感を参考に目分量で巻きました。こんなものでしょうか。だいたい30分くらい巻き続けました。
巻き終わったらハトメラグにハンダ付けします。この時ハトメラグが緩いと動いてしまうので、きちんと板に接着か圧着しておきましょう。ショート(短絡)や断線の原因になりますからね。
直流抵抗を計測すると16.9kΩでした。直流抵抗値が高いほど線をたくさん巻いているということですので、抵抗値の大きさが出力の高さだと思って構いません。Twang King Neck(DP172)くらいを目指していたので6.22kΩ辺りが目標だったのですが、まあ巻き過ぎでも別に良いでしょう。ここで抵抗値が表示されない場合は断線しているということで作り直しです。実はここまでに3回失敗してやり直しています。
ハトメにリード線をハンダ付けして完成。念のため絶縁用のアセテートテープを巻いておきましょう。ハウリング防止のポッティング(蝋漬け)を行わない場合はこれで完成ですが、ポッティングする場合はテープは後にした方が良いです(後述)。
リード線をジャックにつないで、そこにシールドケーブルを接続してアンプに繋ぎます。そして完成したピックアップを別のギターの弦に近づけて音を拾います。問題無くアンプから音が出ました。叩いた音叉をピックアップに近づけてもアンプから音が出ますので、そうやって導通確認をこまめに行いましょう。
続きましてリア用ハムバッカーの製作です。ハムバッカーは同じ磁力方向、同じ巻き方向の2つのシングルコイルを用意し、片方を上下逆にひっくり返して2つ並べたものです。つまり逆の磁力方向、逆の巻き方向の2つのシングルコイルをひっくり返さずに2つ並べてもハムバッカーになります。そうすることでハム(ノイズ)を打ち消しあってバッキング(退ける)するからハムバッカーなんですね。ちなみにコイルを2つ直列に繋ぐので単純に出力は2倍になります。
フロントピックアップと同様に磁石を接着します。フロント寄り(ネック側)のコイルは上部にN極が来るように、リア寄り(ブリッジ側)のコイルは上部にS極が来るようにしています。タップ接続したときにフロントピックアップとハムキャンセル効果を実現するためですが、タップしないので恩恵は少ないです。
この段階で組み合わせてみます。良い感じですね。
フロントピックアップの時と同じようにコイルを巻きます。リア寄り(ブリッジ側)のコイルはフロントピックアップと全く同じように巻きましたが、フロント寄り(ネック側)のコイルはボビンをひっくり返してワインダーに取り付けて巻きました。そうすることで巻き方向が逆になりますからね。巻く量は相変わらず勘ですが、2つのコイルに大きな差があってはよろしくないので、目分量でなるべく同じくらい巻きました。
ハトメを中継地点としてフロント寄りコイルの巻き終わりとリア寄りコイルの巻きはじめをハンダ付けします。そしてリード線をハンダ付けして完成。念のためこの時点では板を接着せずテープで仮止め。
早速音が出るかチェックしましたが、どうも極端に出力が小さいです。こいち氏に相談してヒントを頂いて究明できたのですが、どうやらコイルのHOTとCOLDを間違えていたようです。
コイルの巻きはじめと巻き終わりのどちらがHOTかCOLDか。それは製作者が勝手に決めて良いのですが、複数のコイルを組み合わせる場合は法則性をもって決めなければいけなかったんですね。でないとコイル同士が逆位相になり信号を打ち消し合ってしまいますから。
コイルのHOTとCOLDの決め方はこんな感じを採用しました。
1.テスターをコイルの巻き終わりと巻きはじめに繋ぐ。赤と黒のリードはどちらでも。
2.テスターをmV(DC・直流)の値に合わせて電圧を測れるようにする
3.ピックアップに、叩いた音叉や弾いた弦を近づけたり、金属で磁石を叩いたりする
4.電圧の値が+に振れる時、赤いリードを繋いでいる方がHOT。-に振れる場合は黒いリードを繋いだ方がHOT
HOTとCOLDの基準を明確にしましたので、これで位相問題は解決です。フロント側コイルのCOLDとリア側コイルのHOTをハンダ付けして再度完成。フロント側のHOTがHOTに、リア側コイルのCOLDがCOLDになります。まあこれはどちらのコイルが先でも後でも、HOTとCOLDさえ間違えなければ大丈夫です。直流抵抗値は16.04kΩでした。ハムバッカーに関しては、いつも愛用しているSeymour Duncan社のSeth Lover model™(SH-55b)の8.1kΩ辺りが目標だったのですが、まあ出力が高い分には良いでしょう。フロントピックアップと同じく巻き過ぎでしたね。
無事に音の確認もできたので2つのコイルをタイトボンドで接着します。
24時間経過後、絶縁処置としてアセテートテープを巻きました。
ピックガードに仮止めし、取付ビス用の穴を開けます。
板の耳の穴を開けた箇所に接着剤でナットを取り付けます。これでギターに取り付け可能なピックアップになりました。
スタジオやステージで大音量でギターを鳴らすと、それによりピックアップコイル自体が振動してピーッとハウリングを起こすことが多々あります。そうならないようにコイルに蝋などをしみこませてガッチリ固めることをポッティングと言います。経験上、ポッティングを施していないピックアップはステージの大音量の中ではとても使えませんでした。歪ませるならなおさらです。
インターネットでロウソク製作用のパラフィンワックスを購入しました。1kgで800円くらい。ポッティングの材質で電気信号が変質したりしませんので、蝋の材質で音が変わるということはありません。安物で大いに結構。ただ融点が高いとコイルワイヤーの被膜融解が怖いので、低い温度で溶ける蝋が良い気がします。恐らく普通のパラフィンワックスで大丈夫でしょう。
瓶にピックアップを入れます。
パラフィンワックスの粒を入れます。大体これくらいで良いでしょう。
ピックアップを一度取り出して、鍋に瓶を入れて湯煎で蝋を溶かします。溶けきるまで数十分かかりました。
蝋が完全に液化したら鍋の火を止めてピックアップを沈めます。
気泡がぷつぷつと静かに上がってきます。割りばしなどでピックアップを動かすとたまに大きな気泡が出てきたりして、どんどん蝋が浸透していくのがわかります。この時点でアセテートテープは全部剥がれてしまいました。テープ絶縁はポッティング後が良いですね。
ここまでに何度も断線などで挫折しているので、直流抵抗値を測りながら作業しました。加熱中は抵抗値が高めになるんですね。抵抗値が出るということは断線していないということ。安心です。
15分くらいでもう気泡が出てこなくなりました。減圧したり真空にして必死に空気を出す手法もあるようですが、そこまでしないピックアップメーカーも多いので、こんなもので良いでしょう。何度もポッティングを繰り返すのもあまり意味を感じません。もう1度ポッティングしても、1度目に施したポッティングがまた熱で溶けるだけのような気もしますし。
蝋から取り出し、固まる前に表面の蝋を拭き取ります。
冷やして蝋が固まったらOK。初めての自作ピックアップが完成しました。
と思いきや、ここまで来てフロントピックアップの抵抗値が計測不能になりました。どうやら断線している模様。こんな悪夢があっていいのか、と放心状態になりました。一体何時間かけたと思っているのでしょう。
調べてみますと、どうやら蝋から出して冷やして固める場合は、ゆっくり冷まさなくてはいけないようでした。早く冷やそうと思って寒空の下、真冬の屋外で冷やしたのがいけなかったようです。ポッティング後の蝋を急速に冷やすとコイルの断線する確率が格段に上がるそうな。全ての苦労が水の泡になりますが、線を全てほぐして再製作です。しかしハトメラグやナットなどを接着した板はもう線が巻けないので使えません。
再びインドローズの板を削り出してオイルフィニッシュで塗装するところからやり直し、どうにかまたコイルを巻きました。ここまでに更に2回失敗してエナメル線の束を捨てています。抵抗値は12.26kΩ。果てしなかったです。
と思ったらリード線取付の段階で線が切れてしまい、また作り直しに。ここまでくるともう驚きません。感情の無い冷徹なマシーンと化してまた何も思考せずにひたすらコイルを巻くだけです。膨大な時間をかけて完成した新たなフロントピックアップの抵抗値は10.68kΩ。1万m程あるらしい300gのワイヤーの残りは恐らく3分の1くらいになっていました。
ナットの接着中も抵抗値を測ります。もう片時も油断しません。
ポッティング時も抵抗値を測り断線に目を光らせます。
もちろんポッティング冷却も温かい部屋の中でゆっくり行いました。
ようやく完成です。2度とピックアップなんて作りたくないと思いました。
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ギター自作その3「フレット溝切り・ナット切り出し・指板接着など」
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