ギター自作その1「計画・準備・材料調達」

■目次

ギター自作その1「計画・準備・材料調達」  ←今ここ

ギター自作その2「ボディ切り出し・トラスロッド仕込みなど」

ギター自作その3「フレット溝切り・ナット切り出し・指板接着など」

ギター自作その4「指板整形・フレット打ち込みなど」

ギター自作その5「ヘッドネック・ブリッジテールピース・ナット溝切りなど」

ギター自作その6「ピックアップの自作」

ギター自作その7「フィルムコンデンサの自作」

ギター自作その8「ピックガードやノブの製作・キャビティの座繰り」

ギター自作その9「仮組み・ボディ塗装」

ギター自作その10「ピックガード塗装・シールディング」

ギター自作その11「蜜蝋ワックス塗布・組込み・完成まとめ」

ギター自作その12「完成写真」


 

調整やメンテナンスも自身の手で行えない駄目ギタリストならいざ知らず、演奏以外でのギターいじりも好きなギタリストならば、やはり1度くらいギターを自作してみたいと誰もが思うもの(多分)。というわけでついにギターを自作しようと思い立ちました。

 

長い間抱いていた「ギター作ってみたい!」という思いが原因であり、先日完成した「アーティラート」で改めてギターの構造に考えを巡らせるようになったのがきっかけであり、今年(2017年)の楽器系新年会で漫画家・イラストレーターのまつだひかり先生ご夫妻とお話ししたときに、ご主人のこいち氏とギター自作話で盛り上がったのがトドメでした(こいち氏は独学でギターを自作し、その模様を記事にまとめていらっしゃるのです)。

 

こいち氏のブログなど、ネット上を調べてみると様々な個人ビルダーの記事が見つかります。YouTubeでもギター製作動画が星の数ほどあります。作り方はそれらを見ながら総合的に自分で考えて編み出していく事にします。

 

 

それでは設計前に、設計コンセプトを考えます。

 

 

ボルトオンネックのギターは構造上好きになれないので、ここはセットネックになります。しかしセットネックの緻密な木工は初心者にはハードルが高い。となりますと、思い切ってスルーネックで作ることになります。さらに木と木の接着も省いて、ネックとボディの全てもつながったスルーネック1Pギターを作ることにしました。これならば木の調達が難しいだけで、製作工程を大幅に減らすことができそうな気がします。元来楽器には1ピース信仰がありますので、その信仰にならえば複数の木を接着して作り上げるよりも、一枚木で作る方が圧倒的に楽器として優れているはずです。ただ、そんなギターが存在するのでしょうか。業界関係者らに問うと口を揃えて「Marchione(マルキオーネ)という外国ルシアーが過去に何本か作ってるはず」というだけで、その他にはあまり聞いたことがありません。という事は相当面倒臭く、製作的にデメリットだらけなのでしょう。

 

以上の理由で1Pスルーネックギターを作ることになりましたが、そうなると現在の私の設備と加工技術的にネックの仕込み角は作れないことになりますが、そこは妥協としましょう。ヘッド角だけは板の厚みが許す限り設けられそうですね。また、せっかくの初自作ですので作れる部分は全て自作する事にします。その他の部分は、いつものオリジナルギターと同じでいいでしょう。木工未経験ですので、シェイプも簡単なテレキャスタータイプとし、「グランドリオン」をほぼコピーすることにしました。バインディングやインレイなど、音に全く関係ない癖に異常に手間がかかる装飾系は、いつの日か技術向上した時にでも挑戦することにし、今回は無しにします。

 

 

以下、全くの独学で初めて自作するギターの仕様・コンセプト(製作前構想)になります。

 

 

・スルーネック1Pギター(一枚板くりぬきギター)

・ボディ・ネックともに繋ぎ目の無いマホガニー

・ボディ厚は40mm

・22フレット仕様、指板はエボニー

・塗装はオイルフィニッシュ

・2Wayタイプトラスロッド

・ステンレスジャンボフレット

・可能な範囲でヘッド角をつける
・ネックとヘッドの間にボリュート加工
・フロントシングル&リアハムの2ピックアップ仕様。ピックアップは自作。

・ペグはGOTOH MG-T(マグナムロックトラッド)ロックペグ。ギア比1:21
・ブリッジはTune-O-matic

・テールピースは木で自作
・ナットはステンレスで自作
・リア.P.Uはトグルスイッチ直結、フロントP.UにはハイパスVol(100pF)。そのコンデンサも自作。
・ストラップピンはDimazio社のCliplock

 

 

そして心得としては

 

 

・材料、パーツのグレードは贅沢・高望みせず、可能な限り手持ちの在りものを使う

・必要工具の購入は可能な限り最小限にとどめる。

 

 

こんなところでしょうか。

 

 

さて設計です。Adobeイラストレーターを使い独学で作った過去の製図があるので、それを転用して作った図面がこちらです(この時点ではピックアップは既製品のものになっています)。

 

テールピースの形状は作りながら考えようと思っているので仮の状態です。

 

実寸サイズで出力したいのですが自宅のプリンターはA4サイズまでですので、どこかに印刷に出さねばなりません。ネックとボディが分かれているならギターでしたらコンビニのA3用紙印刷を組み合わせればいいのですが、なにぶん全てが1つに繋がったなったギターですので、この場合A0サイズ(841mm×1189mm)の紙に出力するが必要になります(A4用紙の16倍のサイズ)。

 

「A0 図面 印刷」でネット検索してみると、様々な業者が出てきます。モノクロ普通紙で1部100円~300円で印刷してくれるみたいですが、どこも送料が高く、クレジット払いを受け付けていないため、送料手数料合わせると最終的にA0用紙2部で1500円前後と大差ない模様。よって検索で1番上に出てきた業者にPDF入稿し、翌々営業日に届きました。

 

 

本当に実寸サイズで印刷されているのか、念のため調べてみるとピッタリ。63mmの箇所はしっかり実測63mmでした。

 

 

次は木ですね。メインとなる木を調達しなければなりません。余白を考えても、103cm×40cm程度の木が必要で、厚さは4cm。数日間探した結果、インターネットオークションでマホガニーテーブルの天板(単板)が出品されているのを見つけましたので即購入。

 

 

長さ・・・170.3cm
幅・・・32cm~41cm
厚さ・・・5cm
重さ・・・16.6kg

購入価格・・・18000円

送料・・・4500円

 

こちらは木表(きおもて)。年輪を見て外側をそう呼び、一応板の表側になるそうです。ちなみに横縞は木目ではなく、あえて残してあるというノコギリの跡。

 

 

こちらは木裏(きうら)。年輪を見て内側の面が裏だそうです。

 

 

上の方に割れがありますので、そこは避けて使うことになります。

 

 

板の両面にわたる割れ。

 

 

木裏の下部には節というか節穴があります。ただ演奏性や強度的にも問題無さそうですので、これは味わいとして活かしたいですね。

 

 

使用する部分を大雑把に決めます。割れもありますし、上3分の1くらいはバッサリ切ることにします。

 

 

103cmくらいの所に線を引いて、ここをカットします。

 

 

人生でノコギリを使った経験は10回未満だと思います。持っているのは大昔に東急ハンズで購入した1000円の折り畳みノコギリのみ。こんなのでギターが作れるのか。

 

 

我ながらなんと汚い切り口でしょうか。どうやったら上手に切れるのかさっぱりわかりません。

 

 

どうもうまくいかないので試しに反対側からも切ってみます。

 

 

案の定ズレました。綺麗にまっすぐノコギリを引くという基本技術を持っていないので当然こうなります。

 

 

どうにか切断できました。手作業で約10分。疲れる上に全然楽しくない作業なのでこの工程はもう遠慮したいですね。

 

 

切断した余りの部分は、欲しがっていた知人に譲りました。

 

さて、この板の厚さは50mmですので、ギターの厚さ40mmまで削らなくてはいけません。調べてみると、どうやら鉋(カンナ)で削るしか方法は無いらしいのですが、鉋も触ったことが無い全くの素人がこの大きさの板を綺麗に真っ平に10mm薄くするには、修行を含め少なくとも5年くらいかかりそうな気がします。そこで便利なのがプレーナーと呼ばれる自動鉋機械だそうな。そんな機械は持っていないので、やはり業者にお願いする事に致します。

 

ギター工房や木工工房などを中心に「プレーナーで木の厚みを削って欲しい」と問い合わせ、3軒ほど断られた段階で「サイズが大きいから材木屋とかにお願いしたほうがいい」とアドバイスを貰いまして、ネット検索で色々調べました。すると吉祥寺の勝又木材というところを発見。ん?知ってるぞここ?ライブハウスCRESCENDOの隣じゃないですか。

 

すぐに問い合わせ、閉店時間の間際だったので大慌てで向かいギリギリで滑り込みました。さらに加工中に閉店時間を過ぎてしまったにもかかわらず快く加工を続けてくださいました。とても親切なお店です。

 

 

ネットオークションでの購入時、商品説明には「体に優しい自然オイル塗装を2度塗りの状態です」と書いてあったのですが、どうやらウレタン塗装されていました。そのままプレーナーに入れると機械の刃が壊れるそうで、事前に電動サンダーで塗装を剥がしてからプレーナーに入れなくてはならず、その分3000円くらいの加工費が5500円になりました。もうバッリバリと激しい音を音たてて塗装が剥がれていきます。どこがオイル塗装だ、と憤慨しました。

 

 

見るに見かねたのか、汚い切り口も綺麗にカットして整えてくださいました。

 

 

いよいよプレーナーで50mmの厚さを40mmにしていきます。プレーナーってこんなに大きな機械だったんですね。買わなくてよかった。

 

 

こんなに綺麗になりました。

 

 

厚さを整えると同時に、若干反っていた状態も真っ平になりました。

 

 

節穴の部分もいい具合に削れて少なくなりました。よく見ると切り口に釘の跡が4つありますね。

 

 

この工程で判明したことが2点あります。1点は、オイル塗装ではなくガッチガチのウレタン塗装だったこと。もう1点判明した事実がとんでもありません。購入時の商品説明には「世界の銘木マホガニーのテーブルです」と書いてあったのですが、勝又木材の材木のプロのみなさま曰く、

 

 

・・・この木は「くるみ」だそうです。

 

 

マホガニーじゃない!まあクルミってのは和名で、洋名「ウォルナット」の事ですからギターにも使われることが多いです。まんまと騙されてしまいましたね。損した!と思いもしましたが、同サイズのクルミ(ウォルナット)の無垢材を調べると7万円だの8万円だの、それはそれは高級な値段で売られていました。材の持つ楽器的特徴を調べてみてもなかなか良さそうです。Gibson社でもよく使われていますしね。ここは手のひらを返して喜んで使うことにしましょう。余りの材もたくさん出たから得したかもしれませんし。うーん。結局木自体が18000円、送料4500円、加工費5500円、合計28000円でようやくスルーネック1Pギターの材が用意できました。とっても安い。しかし自作材料にしては高い気もします。

 

ちなみに勝又木材では端材が売られており、「袋詰め放題で1000円!」と激安だったため頂いてきました。この先、未体験の木工加工技術なども多々ありますでしょうから、実験・練習用に適当な木が欲しかったところですし、スペーサーや当て木として端材はいくらでも欲しかったので助かります。

 

 

それでは早速図面を当てて、材のどの部分を使用するか考えます。年輪の中心がなるべくギターの中心線と一致するようにしました。節穴の部分をボディバック(裏側)にあしらうことにしたので、結果的に木表がギターの表面に来ることになりました。

 

 

一生懸命鉛筆を削りながら線を引いたのですが、よくよく考えればシャープペンシルを使えばよかったわけで、もう鉛筆は捨てました。ギターの中心線だけは完成までしっかりと何度も確認します。1m(100cm)定規が非常に役立ちました。いつ何のために購入したのかまったく覚えていませんが、持っていてよかった。

 

 

本来ギター作りにはテンプレートというものが欠かせないそうなんですが、面倒くさいのでナシで進行しようと思っていました。しかしながらMDF合板が思いのほか安かったので作ってみる事にしました。9mmMDF板は大体400円。

 

 

線だけ引いてとりあえずは放置です。まだ糸鋸盤を入手していないので切れないのです。

 

 

本来はボディとネックがつながったテンプレートを作りたかったのですが、そんなサイズのMDF板が入手できなかったのでネックは別で製作します。

 

 

本器は22フレット仕様ですが、念のため26フレットくらいまでの線を引きます。

 

 

中心線に合わせるのが難しいですね。ひたすら慎重に線を引くくらいしか方法を思いつきません。アクリル業者に図面を渡してアクリル板でテンプレートを作ってもらうことも考えたのですが、見積もりが1万円を優に超える上に最小単位が0.5mmなので、完成しても自分で微調整が必要になりそうなのでやめました。使うかもわからないので400円の合板です。

 

指板材も届きました。恐らく日本で1番有名なギター用木材販売業者aimokuで、1番グレードの低いエボニー材を購入。余った部分でテールピースを作ろうと思ったので長めのベース用指板にしました。送料・代引手数料込みで大体3000円です(aimokuの通販は代引のみ)。

 

 

その他、今回のギター製作を機に欲しかったツール類を買いました。

 

 

ざっくりと準備ができたので次はいよいよ加工に入ります。

 

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