ORANGE RANGEのリーダーであるナオト氏(Gt)と話しているときに、ギター用のフィルターは作れるものかと尋ねられ、アナログのフィルターなら簡単だと安請け合いしてしまいました。抵抗器とコンデンサ1つずつで構成するいわゆるCR(抵抗器とコンデンサ)フィルタは最も簡単な回路の1つですが、これをレコーディング実用レベルで使うのはなかなか難があります。となるともう少しクオリティと効果の高いフィルターを作らねばなりません。しかし大型回路になるようならばアナログミキサーを使った方がよほど効率的なので、そこそこの回路規模で、かつ足元のボードにも収まるものを作ることにしました。本来機材自作は単なる趣味ですので他人からの依頼は受けないのですが、やはり友人からの面白そうな相談には挑戦したくなってしまいます。
ナオト氏の要望は、90Hz、50Hz、30Hzから下をバッサリ切れるハイパスフィルターと、10kHz、15kHz、20kHzより上をバッサリ切るローパスフィルターでした。それぞれ狙いの周波数はスイッチで切り替えられるようにします。オペアンプ1つで簡単に構築できて、かつ効果の高いものと言えば三次多重帰還型フィルタしか思いつかなかったので、それを採用することにしました。
フィルタ回路のような定型回路は、狙った効果を出すための定数計算を自動で行えるようなサイトも多々あります。電卓を片手に計算を頑張るのは面倒でしたので、当然そのようなサイトにお世話になりました。今回使った便利なサイトはこちら。
三次多重帰還型ハイパスフィルタ計算サイト
http://sim.okawa-denshi.jp/MultipleFB3Hikeisan.htm
三次多重帰還型ローパスフィルタ計算サイト
http://sim.okawa-denshi.jp/MultipleFB3Lowkeisan.htm
30Hz以下をカットするCR構成はこちら。部品定数は入手しやすいもので構成しております。コンデンサの値が固定なので、抵抗器3本の値を変える事で狙う周波数が変更できます。
50Hz以下をカットするCR構成はこちら。
90Hz以下をカットするCR構成はこちら。
10kHz以上をカットするCR構成はこちら。こちらもコンデンサの値は固定。抵抗器4本の値の組み合わせで、狙う周波数が変わるような構成にしました。
15kHz以上をカットするCR構成はこちら。
20kHz以上をカットするCR構成はこちら。
それらのフィルターを8回路3接点ロータリースイッチで切り替えられるようにし、前後をオペアンプの単純バッファで挟んだ回路がこちら。
上記の回路を回路シミュレータでシミュレーションしてみても綺麗に低域がカットされています。
高域も綺麗にカット。
ハイパスとローパスを同時にONにするとこのような感じ。
回路が決まれば次はレイアウトなどを決めます。フットスイッチは不要だそうなので、トグルスイッチでON/OFFを切り替えます。電池で動かすことは無いそうなので、センターマイナス9VのDC電源で動作するようになっています。
ロータリースイッチに抵抗器やコンデンサを取り付け、フィルターが狙う周波数を切り替えられるようにします。
配線終了。
こちらはハイパスフィルター基板。
こちらはローパスフィルター基板。完全独立のフィルターです。
実際に音を通して使ってみました。検証には、特定楽器よりも低域や高域がバランスよく出ているマスタリング済みの楽曲音源を使っています。一番外側の波形が原音。一番内側がデジタルプラグインで同じようなハイパスEQを行ったもの。その間が今回製作したアナログフィルタの実測波形です。デジタルには及びませんが、しっかりハイパスできております。
こちらはローパスフィルターの検証結果。デジタル処理よりも、波形バランスを崩さずにローパスできているのがわかります。
ハイ・ロー両方のフィルターをオンにした実測結果。良い感じですね。
良い感じではありますが、やはり超高域や超低域の成分が少ないギターでは変化はとても分かりづらく地味です。こんなもの何に使うのでしょうか。
自分でもとても勉強になった面白い製作でした。ちなみにナオト氏の誕生日付近だったので、材料費から手間賃まで含めタダで作りました。見返りにとびきり豪勢なラーメンをおごって貰おうと思います。