オリジナルギター4 「アーティラート」

グランドリオン」、「チキンナイフ」、「メギドファイア」に続く4本目となるオリジナルギター「アーティラート(Atillart)」が完成致しました。

 

以下、本機の主要な仕様です。いつものようにグランドリオンと全く同じ仕様を目指したのですが、後述の事情により様々な個所が異なっています。

 

・セットネック

・指板はエボニー

・ホイールタイプトラスロッド

・ステンレスジャンボフレット

・ヘッドにはレスポールと同様の角度あり
・ネックとヘッドの間にボリュート加工
・フロントP.UはDP172、リアP.UはSH55b
・ブリッジはTune-O-matic、サドルはグラフテック。

・フロントP.UにはハイパスVol(100pF)、リア.P.Uはトグルスイッチ直結

・ストラップピンはDimazio社のCliplock

・全重量5.25kg

 

 

なんといってもこのギターの特徴は使用されている木材です。ボディ・ネック共に幻のキューバンマホガニー(キューバマホガニー)の単板を使用しております。マホガニーといえば高級楽器に使用される銘木ですが、現在その中で最もグレードが高いとされるのはホンジュラスマホガニー(通称ホンマホ)かと思います。ホンジュラス共和国と、その周辺で採れるマホガニーの事で、楽器は勿論、高級家具やドアなどにも使われる木材ですが、現在はワシントン条約により取引が制限されており、価格も驚くほど高騰していますし、資源も枯渇が進み入手もなかなか難しいのが現状です。今ではホンマホの代用としてアフリカンマホガニーという別物の木が使われることも多いそうですね。

 

 

そんな希少木材ホンジュラスマホガニーも、ギターにおいては元々はキューバンマホガニーの代用材だったそうで、本来本物のマホガニーとはキューバンマホガニーの事を指すそうな。しかしそのキューバンマホも今はもうほぼ絶滅・枯渇し、市場に出回ることは無いとのこと。キューバンマホ枯渇後の代用材として、ホンマホが使用される事になったという歴史があるんですね。ホンマホは、キューバンマホガニーと比べると強度的に弱く、ギブソンのギターはネックが折れやすいと言われる元凶の1つになってしまってるとか。私もギブソンのホンマホギターのネックを何回も折っています。

 

参考:マホガニーとは / キューバンマホガニー

 

 

そんな幻の銘木キューバンマホガニーがあるとのことで、犬山市にあるギター工房を訪ね実物を見てきました。

確かに赤いですね。これが幻の銘木。ただこれが本当に本物のキューバンマホガニーかと言われれば私にはわかりません。職人や、その入手経路の人々がそう言うならばそうなのでしょう。

 

 

というわけで2016年の2月に職人様と打ち合わせをし、春頃の完成を目指して進むことになりました。しかしこの職人様がとてもレスポンスの悪い方で、メールなどは何通かに1回返事があれば良い方で、電話も数十回かけてようやく翌日以降に折り返しがあったり、「いついつ電話します」という約束も幾度となくすっぽかされ、こちらが何度も送った仕様書や要望などにも返事は無く、こちらで用意したパーツを送っても返事は一切無く、事前に約束していたこちらの犬山市訪問を前日夜にドタキャンするなど(宿も取ってしまっていたのに)、それはそれは酷い有様で、極めつけはようやく連絡が取れても全く悪びれる様子もないといった具合。こんな社会人が実在するのかと驚くばかりで、本当に完成するのかも怪しい状態でした。

 

 

こちらは、すぐさま私が制作してお送りしたデザイン図面です。素人図面ですが、イメージが伝わればと思い送付しました。

 

当初春頃の完成予定といわれていたのが6月になりそうだと言われ、8月になってしまいそうだと言われ、9月までにはどうにか、10月になってしまうかも、11月中はちょっと難しいですね、なんて言われるうちに12月になったので、いい加減「受け渡し日を決めましょう」と申し出て、どうにか12/16を受け渡し日に設定して頂きました。のちのち当記事で紹介できればと思って、あらかじめ「途中の製作工程を写真に撮っておいて頂けませんか」とお願いしていたのですが、その写真もこの10カ月で1枚も送って頂けなかったので「現状の写真も送ってください」とお願いしました。

 

 

そして12/4の夜に送られてきた写真がこちらです。

まさかこれが今の状態ではないですよね。だって、12/16に東京で受け渡しですから12/15には完成していなくてはいけませんし、今は12/4の夜だから、あと丸11日しかありませんものね。きっと随分前に撮影した写真ですよね。と自分に言い聞かせました。

 

 

そして翌日12/5送られてきた写真がこちらです。

ザグり(溝)が増えている。という事はやはり現在進行形でこの状態なんでしょうか。知り合いのどのギタービルダーに聞いても、ギター製作には急いだって1カ月くらいかかるものだと言いますし。12/16に受け取れるのかだいぶ不安になってきました。

 

 

そして1つ大きな問題に気づきました。

 

 

そうなんです。写真右側に彫られている溝は(ギターのツノの部分)、本来ギブソン社のエクスプローラーにはその部分にスイッチが付いておりそれを収納するための溝です。しかし私のオーダーではその部分にスイッチは搭載しません。溝は不要なのです。つまり全く必要の無いところをザグっているように思ったので、その旨質問したのでした。すると「ザグりはエクスプローラーの物を流用しています」とだけ返信がありました。

 

 

これはおかしいのでは、と思って数名のギタービルダーにこの写真を送って質問してみると、「そもそも既に施されているピックアップやコントロールのザグりはエクスプローラーとは違うザグりなのに、なんでわざわざエクスプローラーのザグリを流用して不要な溝を掘るのか。これはおかしい」との事でした。もしかするとこちらの仕様書を確認しないでザグってしまったんでしょうか。もう疲れるので何も言わないことを決めましたので、真相は闇の中です。

 

 

そして10カ月も待ったギターは2週間足らずで完成し、12/16に受け取りました。本当はもっと色々施して頂きたい仕様などあったのですが、全く連絡が取れないことが多く、「詳しく詳細をお話したい」というメッセージを何度も送ったのですが1度も返信は無く、結果的にお願いしたものとはかなり異なるギターが出来上がりました。

 

 

背面のピックガードはベルトバックルで傷だらけになるのを防ぐためです。今までのギターは全部ここがボロボロなのです。

 

 

ヘッドに入っていた工房のロゴは早速ぐにゃりと汚く剥がれていたので、綺麗に剥がして2000番のサンドペーパーで磨きました。受け取ったときに塗装もだいぶ柔らかく感じたので、乾燥が不十分だったのかも知れません。そこで12/16から3週間ほど放置乾燥させました。

 

 

指板は真っ黒なエボニー(黒檀)です。

 

 

「フロントP.Uのみボリュームあり、リアP.Uはアウトプットに直結」でお願いしたんですが、両P.Uのマスターボリュームになっていました。ハイパスコンデンサもありませんでした。

 

 

ブリッジサドルはグラフテックをお願いしたんですが、全く違いました。

 

 

ジャックプレートはシルバーを希望したような・・・いや、希望し忘れたかもしれません。

 

 

実際にステージで使用してみてこのピックガードが効果あるのか楽しみです。

 

 

とにかく重いギターです。いろいろと調べると、ホンジュラスマホガニーは軽量であるのに対し、キューバンマホガニーは重いとの事でしたので納得です。全く無意味な部分をザグられているのに、ここまで重いギターは人生で初めてです。頼もしい。以下は実際に数回にわたり繰り返し職人様にお送りした希望と、その結果です。

 

 
 

●セットネック箇所はSNカット(ヒールレス希望)

→ 演奏性に関わる重要な部分ですが、施されていませんでした。

 

●ペグはGOTOH SGL510Z MG-T-A07-L6-C (S×3 L×2 XL×1)にしたいです。

→ 全然違うSparzel社のロックペグが搭載されていました。

 

●ブリッジサドルはグラフテック。ブリッジとテールピースにはイモネジを入れて固定。もしくはTONE PROS

→ グラフテックではありませんでした。イモネジ加工も無し。TONE PROSでもありませんでした。

 

●ナットはニッケルシルバー

→ ブラスナットが乗っていました。

 

●先日工房で申しましたとおり、シースルーという木目が出る塗装を希望です。

→ 受け渡し時に尋ねると「シースルーではないですね。オープンポアですね」と言われて唖然としました。

 

●ネック内にサポートカーボンロッドを入れてください。

→ ここまでくるとサポートカーボンロッドが入っているのかもだいぶ怪しいです。しかし指板を剥がさないと確認できません。

 

●ヘッドにモデル名を入れることは可能でしょうか?

→ 全く返事を貰えず、結局モデル名を入れることもできずに完成しました。

 

 

参考までに、とお伝えして「グランドリオン」製作時のオーダーシートも送っておいたのですが、どうやらそれだけを見て作ったような印象ですね。数回送っている上記要望はメールボックスの奥底へ葬られてしまったのでしょうか。こちらの要望の中で実現可能な部分、実現不可能な部分は打ち合わせを繰り返して詰めていくのが普通ですが、全くやり取りもできずに完成したのでこうなりました。実現不可能な部分があるのは当然しょうがないとしても、それは完成前に事前に断りを入れるのが普通ですよね。だってオーダーメイドですよ。断りもなくオーダーしたのと違う品が出来上がったら、それって大問題だと思うのですが。

 

 

今回はエンドース提供という形でアーティストとギター工房双方にメリットを想定してオーダーメイドにて製作して頂く事になったわけですが、だからと言ってオーダーメイドの内容を事前の断りもなく無視しまくっていいものですかね。何度約束を破られても、何度連絡を無視されても、この10カ月我慢強く冷静に連絡をしてきましたが、社会人として信じがたい対応でした。とんでもないギター工房だと思います。いや、あの数のメールや着信履歴を無視して平然と対応できる精神力には逆に凄いのかも知れません。あっぱれ。

 

 

タダで作って貰ってるんだから文句言うな!と言われればそれまでですが、お互いのメリットのための正式なお仕事ですし、何より約束を反故にするのはダメですよね。ギター工房としてというより、それ以前に人としての問題なのでしょう。実際に私は職人様に文句は1度も言っていませんし、誰かの参考になればと思いまして、起こった事実だけを記しています。まあ別のアーティスト様やきちんとお金を払ってオーダーしているお客様にはもう少し誠実な対応をしていると思いたいですね。非常にいい加減で無礼で不誠実な工房であると感じましたので、今後私は一切関係を持たない事は確かです。

 

 

3週間の放置乾燥を経て様々な個所を変更し、完成に至りました。

 

 

まずは無意味にザグられてしまった溝を埋めます。松の木の端材を少しずつ削ってピッタリの形状にし接着しました。結構ギチギチにキツくはまっています。なぜ松の木にしたかというと、めでたいから。この作業をしたのがお正月だったので。

 

 

ピックガードで隠れる部分ですが、一応黒く塗ります。適当な塗料が無かったので、内部壁面に塗布してある導電塗料と同じもので黒くしました。

 

 

受け取り時に搭載されていたピックアップは工房オリジナルの手巻きピックアップだったのですが、他の3本のオリジナルギターと同じくリアP.UはSeymour Duncan社のSeth Lover model™(SH-55b)、フロントP.UはDimazio社のTwang King Neck(DP172)に交換しました。コントロールサーキット内部もいつもの回路に変更し、ブリッジサドルも無事にグラフテックに交換。ブリッジにタップを切り、イモネジで固定できるようにしました。テールピースはホンジュラスマホガニーの端材で自作しましたが(こちらの記事参照)、それが良い結果を生んだのかは今後使用を続けて結論を下そうと思います。

 

レコーディングなどで本器を使ってみた感じ、なかなか良いギターですね。楽器には罪はありませんので、これからも色々と試しながら使っていこうと思います。

 

2018年2月21日追記

色々経て、「アーティラート」を大改造しました。

→ 記事:ソリッドギターのセミホロウ化