6弦式7弦ギターの製作

昨今の流れもありまして、7弦ギターの音域が必要とされる状況が増えております。それによりライブステージやレコーディングでの7弦ギターの出動頻度も上がっているのですが、やはり6弦ギターに慣れたギタリストにとって7弦ギターは弾きづらいです。その理由は大きく2つ。まずは弦が通常のギターよりも1本多い。そしてネックの幅が広い。この2つの理由は相関しておりますが、それぞれ独立した大きな問題でもあります。

 

その2つの大問題を解決する方法は非常に簡単です。6弦ギターに7弦用の弦セットの2~7弦を張れば良いのです。これにより、いつも通りの弦の本数と、いつも通りのネックの幅を実現できます。唯一のデメリットは、1弦(E弦)が無くなってしまうという事。しかし実際の経験上、7弦ギターで弾かなくてはならない楽曲の場合、1弦のハイポジションの音域が必要になることは少ないので(自分調べ)、大きなデメリットにはなりません。どうしても1弦の上の方の音域も必要になる楽曲の際には、普通の7弦ギターを使えばいいのです。

 

というわけでまずは6弦ギターを用意する事にしました。通常のギターよりも太い弦を張ることになるので、ブリッジサドルやナットの溝を広げる(切り直す)ことになります。しかし手持ちの6弦ギターの中で、実験的に7弦に転用しても良いようなギターはありませんでした。そうなると新しく買うしかありません。

 

2020年6月。ヤフオクを巡回してちょうどいいギターを見つけたので購入しました。

 

 

Gibson USAのSGモデルの中でも廉価なモデル、SG special Fadedです(2005年製)。パーツ類や装飾のコストを抑え、木材も継ぎ目なしの1Pではなく、いくつかの木材を張り合わせた3Pくらいのものを使ってコストを抑えています。通常新品では十数万円の実勢価格ですが、中古で65000円ほどで入手する事が出来ました。ピックガードの保護フィルムやシールも貼られたままだったので、売れ残りの新古品だったのでしょうか。ステージ等では絶対に軽いギターに限ると考えておりますので、SGは薄くて軽くて丁度良いですし、結局マホガニー材のギターサウンドが好みですし、さらに昔からSGシェイプ(形)には憧れがあったので大満足です。

 

 

木の継ぎ目も中心からズレており、木目や色合いの境も目立つB品的なボディ。音には関係無いので十分です。私は完全にGibson系の演奏性に慣れておりますので、これらのブリッジ、テールピース等は必須でした。ただボディカラーが薄いのが気に入らないのでここはのちの修正ポイントとなります。

 

 

ヘッド周りの装飾も非常に簡素です。レスポールで言えばLesPaul studioモデルと同等ですね。ペグはお馴染みGOTOHのロック式しか認めませんのでこちらも交換になります。

 

 

指板は茶色のローズ。ローズという材質は気にしませんが、色は黒でなくては許せませんので、ここは初めての染色に挑戦したいと思います。フレットは全く減っていないようですが、当然いつものステンレスジャンボフレットに交換します。通常の低いフレットでは巧く弾けませんし、フレット交換は人生1度きりにしたいのでステンレス製を選ぶことになります。

 

 

まずは全てのパーツを外します。コントロールサーキットもいつもの回路に変更しますので、余分な穴を塞がなくてはいけませんね。

 

 

ヘッド周りのパーツも外しました。現状ナットも付いたままになっておりますが、金属系の硬質なものに交換します。

 

 

新品に貼られているフィルムも躊躇なく剥がします。現場で傷だらけになってこそだと思っておりますので、ピカピカなギターには興味はありません。

 

 

まずはボディに空いたスイッチ類の穴をいくつか埋めようと思います。何年か前のTOKYOハンドクラフトギターフェスで数百円で購入したエボニーの端材があったのでそれを使います。

 

 

穴埋め用の丸い材を作るために小さく切り出します。

 

 

ヤスリなどで粗削りした後、サンドペーパーで丸く仕上げます。穴より少し大きめに作って、無理やり押し込めば木は変形しますので、大まかで大丈夫です。

 

 

試しにハンマーで打ち込んでみます。問題無さそう。

 

 

隙間埋めのためにエボニーの削り粉を混ぜ込んだタイトボンドを穴に塗り、丸いエボニーをハンマーで打ち込んでいきます。

 

 

表面をサンドペーパーで削れば馴染みます。不要な穴を埋める工程はこれで完了。

 

 

ちょうど塗装が削れたので、色合いがどうなるかワトコオイルで試し塗りしてみます。

 

 

ワトコオイルのエボニー色は好きなんですが、SGとなるともう少し赤みが欲しい気がします。赤みが欲しいならばやはり柿渋か。

 

 

ボディバック側、現状の塗装の上から試しに柿渋を塗布してみます。やはり弾いてしまいますね。

 

 

無理やり全体にたっぷり塗ってみました。

 

 

乾かしてみると凄い剥がれ方です。元の塗装面は結構ザラザラしていたので行けると思いましたが、やはり無謀でした。

 

 

面倒でしたが表面の塗装をサンディングして削りました。

 

 

やはり馴染みが良くなりました。この後、毎日少しずつ重ね塗りしながら柿渋を塗り重ねました。恐らく7回くらいは重ね塗りしたと思います。

 

 

ここで一旦時が戻りまして、ブリッジの高さ調節ネジの頭に切り込みを入れている様子。金属ノコギリハイスパイマンでゆっくり切ります。

 

 

こういう切り込みを入れることで、マイナスドライバーで上から弦高調整が可能となります。最初からマイナスドライバー用の溝があるブリッジもありますが、無い場合は自分で溝を切りましょう。これはすごく便利。

 

 

ギターのコントロールキャビティ内に導電塗料などによるシールド処置は施されていませんでした。ハムバッキングコイルギターなのでそこまで気にはしないのですが、今回フロントピックアップはシングル接続にしたいですし、折角ギターを丸裸にしたのでシールド処置を施したいと思います。導電塗料は過去に導通不具合があったため好きになれないので、物理的にも見た目的にもわかりやすい銅箔シールで覆います。指を切らないように気を付けて。

 

 

ボディトップ側のキャビティ内も銅箔シールドします。空間の形が複雑で、気持ちがめげそうです。

 

 

取り付けたピックアップはこちら。秋葉原の千石電商で一番デザインがレトロで気に入った物を選んでおります。千石電商のノーブランドピックアップはどれも良い感じです。ブランド名によるプラシーボ効果に惑わされない人にはかなりお勧めです。右側は今回打ち替え予定のステンレスジャンボフレット。

 

 

ピックアップやスイッチ類を配線。いつも通りのフロントボリュームのみの回路です。リアは直結です。普段スイッチは角度をつけて取り付けるため、今回はキャビティ内部の壁面のシールドに触れてしまいます。ですから黒い絶縁テープで接触を防いでおります。

 

 

柿渋塗装も良い感じに塗り終えたので、自作の蜜蝋ワックスで仕上げます。

 

 

ブリッジのサドルは、いつも搭載しているのはグラフテックですが、今回はチタン製のサドルに決定。なぜか自宅に余っていて眠っていたので。多分高校生くらいの時に入手してそのまま忘れ去られていたものです。チタンサドル初体験。

 

 

リアピックアップは、私の全てのギターのリアに搭載されているお馴染みのセスラバーモデル。ESP様に在庫あるか尋ねたら新古品が余ってるからという事でご提供くださいました。通常の7弦ギターには6弦用ピックアップが使えないため、いつもの音が出せずに困っていたんです。6弦式7弦ギターを作る事でその悩みを解決できたのはかなり大きいです。

 

 

さてフレットを抜いていきます。熱したハンダごてでフレットをしばらく撫でると、接着剤が溶解してスムーズに抜くことができます。

 

 

自分でフレット交換をしようと思いましたが、そこまで時間もかけられませんし、実践現場に投入したいので最終的にはプロリペアマンに仕上げて貰おうと思います。最後まで自分でもできると思いますが、自分の技術精度が信用できません。打ち込みくらいまではできるでしょうか。

 

 

さて全てのフレットを抜き取りました。様々な合間に行っていたので既に数日が経過しております。コロナ禍による世間の停滞もあり、のんびり進めております。

 

 

粘着シールタイプのロールサンドペーパーをストレートエッジに貼り、指板のすり合わせをします。

 

 

恐らくまっすぐになったと思います。しかしながら自分の精度が信用できません。どうしたものか。

 

 

すり合わせは上手くできたと思い込むことにしまして、次は指板の染色です。ネットを検索すると多数見る事が出来る「白髪染め剤」による染色を試してみたいと思います。

 

 

白髪染めの仕様説明に従って調合し、それを指板に塗るだけです。塗りが甘いと2度染めしなくては黒くなりませんので、しっかり塗り込みます。

 

 

真っ黒になりましたが、結局2度塗する羽目になりました。1度塗った後、若干指板のすり合わせ修正をしたくなり、その際に優しくサンドペーパーで撫でたらあっという間に黒が落ちたのです。白髪染めによる黒色は予想以上に表面的な物でした。それと美容室的な匂いがかなりキツいです。こんなに香料を入れなくてもいいのに。最終的に匂いは時間が解決してくれました(1週間以上)。

 

 

ヘッド裏、ペグのネジ穴を埋めます。普通の爪楊枝にタイトボンドを塗って穴に差し込むだけ。

 

 

乾いたら爪楊枝の飛び出した部分を切り取り、鑿(のみ)で平らにします。色が白くて目立つので、柿渋を塗って目立たなくします。

 

 

仕様ペグはいつものGOTOH製ロックペグ。私が注文した品番はGOTOH SGL510Z-MG-T-A20-L3+R3-Chromeとなっており、このアルファベット群からどんなタイプかを読み取れるようになっています。

 

 

 

ペグ搭載完了。ロッドカバーは余っていたLesPaulStudioのものをつけました。真っ黒だと味気なくて。

 

 

弦を外した時にブリッジが外れたり、弦高が動いたりしないようにイモネジ搭載に改造します。ドリルで穴をあけた後、ネジ山切り用のタップでネジ溝を切り、イモネジを入れます。

 

 

これによりブリッジやテールピースが固定されます。こういう市販品もありますが、自分で改造した方が穴位置も自由ですし、何よりかなり安上がり。

 

 

さてさてフレットを打ち込んでいこうと思いまして、プラモデル用のインジェクター(注射器型)で溝にタイトボンドを流し込み、フレットを打ち込んでいきました。しかしながらこの時点で結構面倒臭くもなっており、指板のすり合わせ精度もずっと気になっており、結局この先はいつもお世話になっているSleek Elite様にお願いする事に致しました。Plekというドイツの機械を使って数値的に科学的にギターを分析して調整して下さるので、新しいギターを導入する度に、一番最初の原初の自分のセッティングと寸分違わず1/1000mm単位で調整できます。もう何年もこれに頼りっぱなし。

 

というわけで指板すり合わせの補正、フレットの打ち込み、すり合わせ、仕上げ、ナットの制作をして頂きました。やっぱり自分でやるのは面倒です。他人の手を借りるに限りますね!

 

 

素敵な風貌に仕上がりました。

 

 

穴を埋めた跡の黒い丸3つも気に入っております。

 

 

指板をすり合わせし直して頂いた際に、白髪染めによる黒色は削れてしまったようで、Gibson等が染色に使う塗料で黒い指板にして頂きました。白髪染めのために使った時間は全く無駄だったという事ですね。フレットもピカピカです。ステンレス材の整形や研磨は非常に大変なはず。自分でやらなくて良かったです。私が自分で用意したステンレスジャンボフレット(5000円購入)は使用されませんでした。こうして余りパーツがまた増えていきます。

 

 

ナットはブラス製。どうやらチタン製の材もあったそうですが、ストラト系の薄いナット材しかなかったそうで、Gibson系の太いナットには使えなかったとの事。チタンナット、かなり興味ありますね。硬くて溝とかなかなか切れないそうです。いつか試したい。

 

 

こうして完成しました。6弦式の7弦ギターです。各弦がどうなっているかは以下の通り。

 

1弦・・・0.13、Bチューニング

2弦・・・0.17、F#チューニング

3弦・・・0.26、Dチューニング

4弦・・・0.36、Aチューニング

5弦・・・0.46、Eチューニング

6弦・・・0.59、Bチューニング

※0.10~0.59の7弦セットを使用し、本来の1弦である0.10弦は不使用

 

2弦だけ本来Gの所をF#にしてチューニングしているのは、本来の6弦ギターの各弦のチューニングの関係性を同じにするためです。つまり普通のチューニングの6弦ギターを、全弦そのまま2音半(-5)下げチューニング下のと同様のセッティングになっております。こうすることで、コード弾きなどが6弦ギターと同じ感覚で行えるわけです。

 

かかったコストは大体こんな感じです。

 

ギター本体・・・65000円

リアP.U・・・0円(ESP様に貰いました)

フロントP.U・・・2585円

フレット代・・・5000円(でも不使用)

SleekElite指板すり合わせ・指板染色・フレット交換・ナット作成・サドル溝切・・・55000円

 

合計13万円くらい

 

今回も無駄な努力や徒労が多かったですが、SleekElite様のおかげで無事に仕上がりました。本来ならこの夏頃にはたくさん活躍する予定だったのですが、コロナ禍による影響でステージ的な出番は未定です。レコーディングに関しては既に出動する予定がありますので、たくさん使っていこうと思います。7弦の音が必要だけれど、7弦ギターはあまり好きじゃない、と思われているギタリストの皆様、お勧めですよ。

 

※2024年2月から導入したファンフレットギターのおかげで、このギターは現在普通のレギュラーチューニングの6弦ギターとして使われています。やはり24.75インチ(628.65mm)のミディアムスケールでのローB弦チューニングは、どうも和音の際にピッチの不安定さが気になりがちでした。短いスケールは弾きやすいですが、ピッチの安定に難がありますね。