50W真空管ギターアンプの自作

数か月前に70年代の品と思われる真空管式アナログミキサーの「残骸」を入手しました。中身の部品の大半は取り外されていて、キャビネット(筐体)とシャーシと、いくつかの部品が残されている、部品取り専用ジャンクです。その筐体とシャーシがせっかくあるのだから、それを利用して真空管ギターアンプを1台製作する事にしました。既にシャーシには様々な真空管用の穴が開いていますので、それをそのまま使えばずいぶん楽だと考えたわけです。何しろ機材製作で最も苦労するのは穴開けですからね。

 

 

大きな電解コンデンサと、各真空管ソケットが残されています。ヒーター配線が残っていたのでそれをそのまま利用させて頂く事にします。

 

 

 

レコーディングでも50Wタイプはなかなか便利ですので、丁度現在進行中の楽曲のレコーディングで活用しようと思いまして大急ぎで回路設計しました。基本的には70年代イギリス系アンプの王道的回路ですが、細かい音色デザイン部分で今風にしています。結果的にハンドメイド系ブティックブランドの高級アンプみたいな音になりました。

 

※耐圧や抵抗器のW数は目安です。各所の実測電圧を表記したので、抵抗の両端にかかる電圧から電流を量を計算してW数の目安としてください。

 

部品は基本的に全てジャンクパーツで製作し、足りないものも手持ちの部品を活用しました。丁度86年製Marshall JCM800から外した電源トランスと出力トランスとチョークコイルがありましたので、値段の張る部品を購入せずに済んだのはラッキーですね。線材の1本に至るまでゴミ部品の中からちょうどいい長さのものを漁って使っております。

 

 

まずは管球式回路におけるA電源と呼ばれるヒーター電源周りを配線し、点灯チェックを行います。100円の6.3VACネオンランプが綺麗に点灯しております。

 

 

次にパワーアンプ部分の配線です。出力管周りと位相反転回路(フェイズインバーター)を仕上げていきます。回路図のVR5(MASTER)から右側の回路ですね。この時点で各所の電圧を計測し、回路図記載の電圧よりも10%ほど高い電圧が出ていれば概ねOKです。完成したらVR5の3番端子にエレキギターを接続して音が出るのを確認します。パワーアンプのみなので、ギターの生の音がそのまま大きく増幅される感じですね。しかしここで物凄い雑音に悩まされることに。

 

 

調べてみるとVR5(MASTER)直後のこのコンデンサC14が原因でした。70年代の日本製ミキサーから外したジャンク部品でしたが、中のオイルが揮発でもしていたんでしょうか。こいつを外し、どこの部品屋でも買えるような積層セラミックコンデンサに交換。これでようやくノイズ無し。良い感じです。

 

 

次に回路図真空管V2からVR2(TREBLE)までを仕上げます。トーンコントロール回路ですね。配線が終わったら各所の電圧を計測します。ここでも回路図記載の電圧よりも若干高めに出ているくらいならミスの気配はありません。次に真空管V2の2番ピンにエレキギター信号を入力して音のチェックを行います。先ほどのパワーアンプチェックと比較してガツンと音がギラつき、実際にトーンコントロールも効くようになりますので、その辺がチェックポイントになります。

 

 

それが終われば初段真空管(VR1)周辺を仕上げて完成。この時点で、回路図記載の電圧の近似値が計測できれば概ね成功です。あ、古いパーツを使う場合は各所きちんと接点クリーニングを行っていないと雑音に悩まされることになりますので、その辺りは徹底的に。

 

 

筐体に収納してスタジオリハーサルで使用してみました。MASTER音量ツマミは10段階中1ちょっとですが、激しめのバンドアンサンブルの中でも結構うるさいです。50Wなのに凄い。ただ残念なことに、GAINを上げた際に若干の「ジー」というノイズが気になります。ライブではこれくらい許容できるとしても、レコーディングではネックになってくるかも。色々と原因を調べた結果、不具合ではなく部品の配置に起因するものですね。真空管回路は回路図だけではどうにもならない製作のコツがあり、それはけっこうレイアウトに関わる部分でして、アースループだったり、ノイズ発生源であるトランスやヒーター配線、その他部品の位置関係がとても大切になってきます。今回は出来合いのシャーシのレイアウトを活用したので、そこに原因があります。しかし段階ごとにチェックを行っていますので、ノイズ発生箇所は明白。初段プリ管周りをどうにかすれば解消できそうでもあります。とても面倒臭い作業なので気が向いたときにやろうとは思いますが・・・。

 

 

様々なアンプと比較しましたが、感動的なほど音が良かったです。これはうれしい誤算です。下のFriedman Amp SS-100 Steve Stevens Modelと比較しても遜色無い音。SS-100もハイゲイン時結構ジージーノイズが多いですが、それよりも若干高ノイズ。

 

 

こちらが最終的な内部の状態。真空管アンプって意外に中身はスカスカなのです。

 

 

ちょっと足りない部品を秋葉原で調達したので、新規部品購入は2000円くらいでした。スピーカーのΩ選択用3wayスイッチ160円、真空管カバー3つで700円、木材670円などなど。たった2000円で作った真空管アンプです。

 

 

フロントパネルが無骨過ぎたので東急ハンズで買ってきたアガチス材の3mm厚板(670円)をオイルフィニッシュで塗装して取り付けました。

 

 

背面リアパネルにも木を貼ってます。小さいトランス(チョークコイル)が空中に浮くように、フロントパネルに取り付けてあります。実はよく見ると左のデカい電源トランスもフロントパネルに取り付けていたり。部品レイアウトの様々な制約をかいくぐるべく、多々無理を押し通した結果です。

 

 

アガチスは真っ白でスッカスカな安っぽい木でしたが、オイルフィニッシュ塗装をして蜜蝋ワックスで艶出しすれば急に高級感が出てきます。

 

 

こちら前面。

 

 

こちら背面。

 

 

1日2、3時間の作業で大体4日間で完成(塗装込)。2000円で作った割には自分史上最高のサウンドであると自負していますが、如何せん「ジー」ノイズが多いです。レコーディングで実用するには修正が必要ですね。キラッキラのクリーントーンから、ザックザクの歪みまで鳴らせますので、まずはステージで使ってみようと思います。

 

 

2017年2月7日追記

 

スタジオで鳴らしたものをハンディレコーダーで簡単に録音してみました。

 

 

途中クリーントーンで弾いていますが、アンプの設定は終始変えておらず、ピックアップVolを絞っているだけです。

 

 

その後ステージでも使用してみましたが、なかなか悪くは無かったです。ただ50Wですと、スタジオではうるさいくらいでしたが、爆音系バンドアンサンブルですと少し音量が物足りなく感じました。